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text:chomonju:s_chomonju361

古今著聞集 馬芸第十四

361 小松内大臣右大将にておはしける時佐伯国方一座にて侍りける・・・

校訂本文

小松内大臣1)、右大将にておはしける時、佐伯国方(重文子)、一座にて侍りける。治承元年三月五日、内大臣になり給ひける時、番長(ばんぢやう)になされにけり。

拝賀の夜、くせもなき馬を移馬(うつしうま)に引かれたりけるに、国方、近習者を呼び出だして申しけるは、「夜、国方さだめてくせものに乗り侍らんずらむ2)」と、近衛の舎人等、目をすまして見侍らんずるに、無念の馬をつかうまつらんこと、歎き思ふよしを申しければ、大臣(おとど)、「今宵は祝ひの夜にてあるに、もし不慮のこともあらば、公私いまはしかりぬべし。後々乗せらるべき」よし、仰せられければ、国方、重ねて申しけるは、「もし落馬つかまつりて侍らば、国方が怪異になし侍りて、暇(いとま)を給ふべし。なほくせものに乗せらるまじくは、番長には、すみやかに他人をなさるべし」としひて申しければ、大臣力及ばで、あがり馬を引かれにけり。

中道口をはづさせてあげけり。まことに違失なし。大臣、感にたへず、帰り給ひて、纏頭(てんとう)せられけるとぞ。

翻刻

小松内大臣右大将にておはしける時佐伯国方(重文子)一座
にて侍ける治承元年三月五日内大臣になり給ける
時番長になされにけり拝賀の夜くせもなき馬を移
馬にひかれたりけるに国方近習者をよひ出し
て申けるは夜国方さためてくせ物に乗侍らんすす
むと近衛舎人等目をすまして見侍らんするに無念
の馬を仕まつらん事なけきおもふよしを申けれ
はおととこよひは祝の夜にてあるに若不慮の/s263r
事もあらは公私いまはしかりぬへし後々のせら
るへきよし仰られけれは国方かさねて申けるは
もし落馬仕て侍らは国方か怪異になし侍りて暇
を給へし猶くせ物にのせらるましくは番長にはす
みやかに他人をなさるへしとしゐて申けれはおとと
ちからおよはてあかり馬をひかれにけりなか道くち
をはつさせてあけけりまことに違失なしおとと感
にたへす帰給て纏頭せられけるとそ/s263l

http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/263

1)
平重盛
2)
「ずらむ」は底本「すゝむ」。諸本により訂正。
text/chomonju/s_chomonju361.txt · 最終更新: 2020/05/03 16:06 by Satoshi Nakagawa