text:chomonju:s_chomonju351
古今著聞集 弓箭第十三
351 ある所に的弓射けるに晩に及びければ・・・
校訂本文
ある所に的弓射けるに、晩に及びければ、「明日や勝負すべき」など人々言ひける所へ、源三左衛門尉翔1)来たりけり。この沙汰を聞きて言ひけるは、「翔はいづ方の方人(かたうど)もすまじ。矢を一手賜へかし。その的串(まとぐし)の前後を射ん。当たりたらん方を勝ちにし給へ」と言へば、人々興に入りて、すなはち矢を取らせたりければ、つい立ちて甲矢(はや)を射るに、前の串に当たりぬ。方の人、ののしりあへりけるに、乙矢(おとや)にて、また後2)の串を射てけり。「この上は、さやうにてこそ候はめ」とて、やみにけり。
かやうに名を得たる上手の振舞ひ、目驚くことなりとなむ。
翻刻
或所に的弓射けるに晩に及けれは明日や勝負すへ きなと人々いひける所へ源三左衛門尉翔(カケル)来り けりこのさたを聞ていひけるは翔はいつかたのかたう 人もすまし矢を一手給へかし其的串の前後を/s258r
いんあたりたらん方を勝にし給へといへは人々興に入 て則箭をとらせたりけれはついたちてはやを射に まへの串にあたりぬ方の人ののしりあへりけるにおと やにて又後(ウシロ)の串をいてけり此うへはさ様にてこそ候はめ とてやみにけりかやうに名をえたる上手のふるまひ目 おとろく事なりとなむ/s258l
text/chomonju/s_chomonju351.txt · 最終更新: 2020/04/29 17:16 by Satoshi Nakagawa