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古今著聞集 管絃歌舞第七
243 いづれのころのことにか大宮右大臣殿上人の時南殿の桜盛りなるころ・・・
校訂本文
いづれのころのことにか、大宮右大臣1)、殿上人の時、南殿の桜盛りなるころ、うへぶしよりいまだ装束もあらためずして、御階(みはし)のもとにて、一人、花をながめられけり。
霞わたれる大内山の春曙の、よに知らず心澄みければ、高欄に寄りかかりて、扇を拍子に打ちて、桜人(さくらびと)の曲を数反(へん)歌はれけるに、多政方が陣直(ぢんのとのゐ)勤めて候ひけるが、歌の声を聞きて、花のもとに進み出でて、地久の破をつかうまつりたりけり。縹(はなだ)の狩衣袴をぞ着たりける。
舞ひ果てて入りける時、桜人をあらためて、蓑山(みのやま)を歌はれければ2)、政方また立ち帰りて同じ急を舞ひける。終りに花の下枝を折りて後、踊りてふるまひたりけり。いみじくやさしかりけることなり。
このこと、いづれの日記に見えたりとは知らねども、古人申し伝へて侍り。
翻刻
いつれの比の事にか大宮右大臣殿上人の時(龍吟抄ニハ堀川右府頼宗也云々)南殿のさくら さかりなるころうへふしよりいまた装束もあらためすして 御階のもとにてひとり花をなかめられけりかすみわたれる 大内山の春曙のよにしらす心すみけれは高欄により/s162r
かかりて扇を拍子に打て桜人の曲を数反うたはれける に多政方か陣直つとめて候けるか哥の声をききて花の もとにすすみいてて地久の破をつかうまつりたりけり花田 狩衣袴をそきたりける舞はてて入ける時桜人をあら ためて蓑山をうたはれけるは政方又立帰て同急を舞 けるおはりに花のした枝を折てのちおとりてふるまひたり けりいみしくやさしかりける事也この事いつれの日記に みえたりとはしらねとも古人申伝て侍り/s162l
text/chomonju/s_chomonju243.txt · 最終更新: 2020/03/27 11:18 by Satoshi Nakagawa