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text:chomonju:s_chomonju221

古今著聞集 和歌第六

221 順徳院御位の時当座の歌合ありけり・・・

校訂本文

順徳院1)御位の時、当座の歌合ありけり。作者の名を隠して、衆議判にて侍りけるに、「古寺月」といふことを知家朝臣2)つかうまつりける、

  昔思ふ高野(たかの)の山の深き夜に暁遠く澄める月影

この歌、叡慮(えいりよ)にかなひて、しきりに御感ありけり。厚紙を懸物(かけもの)に積まれたりけるに、こと果てて人々まかり出でけるに、蔵人左兵衛権少尉橘親季を御使にて、知家朝臣出でけるに追ひ付かせて、「古寺月の歌、ことに叡感あり。よつて勅禄を賜ふなり」とて、重ねて紙を賜はせけり。

知家朝臣、申しけるは、「かたじけなく勅禄(ちよくろく)に賜はる紙、いかでか私用つかまつるべき。明日やがて住吉の御幣に奉るべきよし、披露すべき」よし申して、まかり出でにけり。

翻刻

順徳院御位の時当座の哥合ありけり作者の名をかくして衆
議判にて侍けるに古寺月といふことを知家朝臣つかうまつりける
 昔おもふたかのの山のふかき夜に暁とをくすめる月かけ
此哥叡慮にかなひて頻に御感ありけり厚紙を懸物につ
まれたりけるに事はてて人々まかりいてけるに蔵人左兵衛
権少尉橘親季を御使にて知家朝臣いてけるにをいつかせて古寺月
の哥殊叡感あり仍勅禄をたまふなりとてかさねて紙をたまはせ
けり知家朝臣申けるは忝く勅禄に給はる紙いかてか私用つか
まつるへき明日やかて住吉の御幣にたてまつるへきよし披露/s155r
すへきよし申てまかりいてにけり/s155l

http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/155

1)
順徳天皇
2)
藤原知家
text/chomonju/s_chomonju221.txt · 最終更新: 2020/03/20 11:48 by Satoshi Nakagawa