text:chomonju:s_chomonju183
古今著聞集 和歌第六
183 和泉式部保昌が妻にて丹後に下りけるほどに京に歌合ありけるに小式部内侍・・・
校訂本文
和泉式部、保昌1)が妻(め)にて、丹後に下りけるほどに、京に歌合ありけるに、小式部内侍2)、歌詠みにとられて詠みけるを、定頼の中納言3)、たはぶれに小式部内侍に、「丹後へつかはしける人は参りにたるや」と言ひ入れて、局の前を過ぎられけるを、小式部内侍、御簾より半ば出でて、直衣(なほし)の袖をひかへて、
大江山いくのの道の遠ければまたふみも見ず天の橋立
と詠みかけけり。
思はずにあさましくて、「こはいかに」とばかり言ひて、返しにも及はず、袖を引き放ちて逃げられにけり。
小式部、これより歌詠みの世おぼえ出で来にけり。
翻刻
和泉式部保昌か妻にて丹後にくたりける程に京に哥合 ありけるに小式部内侍哥よみにとられてよみけるを定頼 の中納言たはふれに小式部内侍に丹後へつかはしける人はま いりにたるやといひ入て局のまへをすきられけるを小式部 内侍御簾よりなかはいてて直衣の袖をひかへて おほえ山いくのの道の遠けれはまたふみもみすあまのはしたて/s136r
とよみかけけり思はすにあさましくてこはいかにとはかりいひ て返しにも及はす袖をひきはなちてにけられにけり小式部 これより哥よみの世おほえいてきにけり/s136l
text/chomonju/s_chomonju183.txt · 最終更新: 2020/03/06 12:56 by Satoshi Nakagawa