text:chomonju:s_chomonju067
古今著聞集 釈教第二
67 南都高天寺に住む僧ありけり長谷へ参りて通夜して候ひけるに・・・
校訂本文
南都高天寺に住む僧ありけり。長谷1)へ参りて、通夜して候ひけるに、常よりも人多く参りて侍りけるに、この僧、暁(あかつき)下向せんとしけるに、誰(たれ)とも知らぬ俗来たりて、珠を持ちて、僧に授けて言ひけるは、「この珠、准后2)へ参らせて賜はるべし」とて、すなはち去りにけり。珠の色紫にて、その勢橘のほどなりけり。
かの教へのごとく、准后へ持(も)て参りて、奉りにけり。その前の夜、准后の御夢に。長谷の観音より宝珠を賜はらせ給ふと御覧ぜられけるを、御心の中ばかりに思し召して、仰せ出ださるることなかりけるに、その後朝にこの珠を持ちて参りたりける、不思議なることなり。
件(くだん)の珠、醍醐僧正実賢あづかり賜はりて、たびたび宝珠法行なはれけるとなん。
翻刻
南都高天寺にすむ僧ありけり長谷へまいりて通夜 して候けるにつねよりも人おほくまいりて侍けるに此 僧暁下向せんとしけるにたれともしらぬ俗来て珠を もちて僧にさつけていひけるはこの珠准后へまいらせて 給はるへしとて則さりにけり珠の色紫にて其勢橘の程 なりけり彼をしへのことく准后へもてまいりて奉りにけり 其まへの夜准后の御夢に長谷の観音より宝珠を たまはらせ給ふと御らんせられけるを御心の中斗に思食て/s63l
http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/63
仰出さるる事なかりけるに其後朝に此珠をもちてま いりたりける不思議なる事也件珠醍醐僧正実賢 あつかり給はりてたひたひ宝珠法をこなはれけるとなん/s64r
text/chomonju/s_chomonju067.txt · 最終更新: 2020/01/27 12:25 by Satoshi Nakagawa