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世継物語

第49話 博雅の三位といひける人はえもいはぬ琵琶の上手なり・・・

校訂本文

今は昔、博雅の三位といひける人は、えもいはぬ琵琶の上手なり。まだ童(わらは)にて幼なくおはしけるに、木幡とかやに、目つぶれたる法師の世にあやしげなるに、琵琶は習ひ給ひけり。

秘調のえもいはぬ、三つありけり。それを隠して、「え知らず」とて教えざりければ、心憂く思して、うらみて都へ帰て、夜な夜なみそかにおはしつつ、前栽の中に居たり。

かくしつつ、百夜になりにけり。「もし、これ知らずとて、隠したる手をや弾く」と思しけるに、おほかた弾かざりけり。

すでに百夜になる暁に、心を澄ましてこの法師起き出でて、九月ばかりの月のいみじう明かきにうちながめつつ、この隠しつる手どもを、三つながらこそ弾きたりけれ。弾きはてさせて、前栽の中より出でたり。法師、「いとあさまし」と思ふ。この月ごろ、かうしつつ百夜になりぬるよしを言ふに、心ざしの深きをあはれがりて、惜しむ手、みなを教えつ。

さて後、この僧、いづちともなく消え失せにけり。天人の変じてかかるあやしき物となりてありけるとぞ。

さて、この三位は、琵琶は弾き給ひければ、空にえもいはず楽(がく)を仕合はせつつ、太鼓打ちなどする音しけりとぞ、申し伝へたる。

翻刻

今は昔はくかの三位といひける人はえもいはぬひわ
の上手也またわらはにておさなくおはしけるに木幡
とかやに目つふれたる法師の世にあやしけなるにひ
わは習給ひけりひてうのえもいはぬ三ありけりそれ
をかくしてえしらすとてをしえさりけれは心うくおほし
てうらみて都へ帰て夜な夜なみそかにおはしつつせん
さいの中にゐたりかくしつつ百夜に成にけり若此しら/26オ
すとてかくしたるてをやひくとおほしけるに大方
ひかさりけりすてに百夜に成暁に心をすまして此
法師おき出て九月はかりの月のいみしうあかきに
打なかめつつ此かくしつる手共を三なからこそ引た
りけれ引はてさせて前栽の中より出たり法師い
と浅ましと思ふ此月比かうしつつ百夜に成ぬるよしを
いふに心さしのふかきを哀かりておしむてみなををしへつ
さて後此さういつちともなくきえうせにけり天人
の変してかかるあやしき物と成て有けるとそさて
此二位はひわは引給けれは空にえもいはすかくをし/26ウ
あはせつつたいこうちなとするをとしけりとそ申伝たる/27オ
text/yotsugi/yotsugi049.txt · 最終更新: 2014/09/25 02:40 by Satoshi Nakagawa
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