text:yotsugi:yotsugi027
世継物語
第27話 清少納言清水に籠りたりけるに・・・
校訂本文
今は昔、清少納言、清水に籠りたりけるに、宮より御使ひさして給はせたる。
山ふかき入りあひの鐘の声ごとに恋ぞ日ごろの数は知るらん
また、九月九日、少し山きは近く成ほどに、つねまさの少将、いと高やかに呼びたてて、「これ右の大臣殿(おほゐどの)の御文」とて、さし入たり。香染(かうぞめ)の紙に、
みな人の心移ろふ長月の夢に我さへ過ぎぬべきかな
「遅し遅し」と責めにつかはす。「書き継ぐべき方こそなかりしか」とぞ。右の大臣殿は、粟田殿の事なり。
翻刻
今は昔清少納言清水にこもりたりけるに宮より御 つかひさして給はせたる 山ふかき入あひの鐘の声毎に恋ぞ日比の数はしるらん 又九月九日すこし山ぎは近く成程につねまさの少将い/15オ
とたかやかによひたててこれ右の大いどのの御文とて さし入たりかうそめのかみに みな人の心うつろふ長月の夢に我さへすぎぬべきかな をそしをそしとせめにつかはすかきつくべき方こそなかり しかとそ右のおほゐ殿はあはた殿の事也/15ウ
text/yotsugi/yotsugi027.txt · 最終更新: 2014/09/25 02:25 by Satoshi Nakagawa