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宇治拾遺物語

第2話(巻1・第2話)丹波国篠村、平茸生ふる事

丹波国篠村平茸生事

丹波国篠村、平茸生ふる事

これもいまはむかし、丹波国篠村といふ所に、年比平茸やるかたもなくおほかりけり。

里村の者、これをとりて、人にも心さし、又我もくひなどして、年来過る程に、その里にとりてむねとあるものの夢に、かしらおつかみなる法師どもの二三十人斗いできて「申べき事候」と、いひければ「いかなる人ぞ」と、とふに「此法師原は、この年比候て、宮つかひよくして候ひつるが、この里の縁つきて、いまはよそへまかりなんずる事の、かつはあはれにも候、又、事のよしを申さでは、と思ひて、比よしを申なり」といふとみて、うちおどろきて「こは何事ぞ」と、妻や子やなどにかたり[龍かたる]程に、又、その里の人の夢にも「この定にみえたり」とて、あまた同様にかたれば、心もえで、年もくれぬ。

さて次のとしの九十月にも成ぬるに、さきさきいでくるほどなれば、山に入りて茸を求むるほどに、すべて蔬おほかたみえず。「いかなる事にか」と、里国の者、思ひてすぐる程に、故仲胤僧都とて、説法ならびなき人いましけり。此事をききて「こはいかに。『不浄説法する法師、平茸にむまる』といふ事のある物を」との給てけり。

されば、いかにもいかにも、平茸はくはざらんに事かくまじき物なり、とぞ。

text/yomeiuji/uji002.1420720055.txt.gz · 最終更新: 2015/01/08 21:27 by Satoshi Nakagawa