text:tosanikki:se_tosa46
目次
2月7日 川尻〜不明
校訂本文
七日、今日、川尻1)に船入り立ちて、漕ぎ上(のぼ)るに、川の水干(ひ)て、悩みわづらふ。船の上ることいとかたし。
かかる間に、船君(ふなぎみ)2)の病者(ばうざ)、もとよりこちごちしき人にて、かうやうのこと3)、さらに知らざりけり。かかれども、淡路専女(あはぢたうめ)の歌に4)めでて、都誇りにもやあらん、からくして、あやしき歌ひねり出だせり。その歌は、
来(き)と来ては川上(のぼ)り路(ぢ)の水を浅み船もわが身もなづむ今日かな
これは病をすれば詠めるなるべし。一歌(ひとうた)にことあかねば、今一つ、
とくと思ふ船なやまずはわがために水の心の浅きなりけり
この歌は、都近くなりぬる喜びにたへずして言へるなるべし。
「淡路の御(ご)5)の歌に劣れり。ねたき。言はざらましものを」と悔しがるうちに、夜になりて寝にけり。
翻刻
七日けふかはしりにふねいりたちて こきのほるにかはのみつひてなや みわつらふふねののほることいとかたし かかるあひたにふなきみの病者 もとよりこちこちしきひとにて かうやうのことさらにしらさりけり かかれともあはちたうめのうたに めててみやこほこりにもやあらん/kd-44r
からくしてあやしきうたひねり いたせりそのうたは きときては かはのほりちのみつをあさみ ふねもわかみもなつむけふかな これはやまひをすれはよめるなるへし ひとうたにことあかねはいまひ とつ とくとおもふふねなやますは わかためにみつのこころのあさき なりけりこのうたはみやこちかく/kd-44l
https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100421552/44?ln=ja
なりぬるよろこひにたへすして いへるなるへしあはちのこのうたに おとれりねたきいはさらましもの をとくやしかるうちによるになり てねにけり/kd-45r
text/tosanikki/se_tosa46.txt · 最終更新: 2023/10/09 22:21 by Satoshi Nakagawa