text:tosanikki:se_tosa22
1月13日 室津
校訂本文
十三日の暁(あかつき)に、いささかに雨降る。しばしありて、やみぬ。女これかれ、「沐浴(ゆあみ)などせん」とて、あたりのよろしき所に降りて行く。海を見やれば、
雲もみな波とぞ見ゆる海人(あま)もがないづれか海と問ひて知るべく
となん、歌詠める。
さて、十日余りなれば月おもしろし。船に乗り始めし日より、船には紅(くれなゐ)濃くよき衣(きぬ)着ず。それは「海の神に怖(お)ぢて」と言ひて、何の葦陰(あしかげ)にことづけて、老海鼠(ほや)のつまの貽鮨(いずし)・鮨鮑(すしあはび)をぞ、心にもあらぬ脛(はぎ)に上げて見せける。
翻刻
十三日のあかつきにいささかにあめふる/kd-22r
しはしありてやみぬをんなこれかれ ゆあみなとせんとてあたりのよろしき ところにおりてゆくうみをみやれは くももみななみとそみゆるあまもかな いつれかうみととひてしるへくとなん うたよめるさてとうかあまりなれは つきおもしろしふねにのりはしめし ひよりふねにはくれなゐこくよきき ぬきすそれはうみのかみにおちてと/kd-22l
https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100421552/22?ln=ja
いひてなにのあしかけにことつけて ほやのつまのいすしすしあはひを そこころにもあらぬはきにあけて みせける/kd-23r
text/tosanikki/se_tosa22.txt · 最終更新: 2023/09/10 11:56 by Satoshi Nakagawa