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text:sesuisho:n_sesuisho7-050

醒睡笑 巻7 廃忘

7 高野の威を借り諸国を歩く聖の若輩なるが一夜の宿を借りけるに・・・

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高野1)の威を借り、諸国を歩(あり)く聖2)の若輩なるが、一夜の宿を借りけるに、亭主は留守にて、若き女房の徒(いたづら)さうなるあり。とかく言ひ寄り、この夕べ逢はんに定まれり。しかるに女房の指南するやう、「そちは二階に寝(い)ねよ。鶏が鳴かねば、下衆(げす)どもを寝ねさせぬ法なり」と語れば、聖、「われは幸ひ鶏の鳴き真似上手ぞ」と契約し、戌亥(いぬゐ)の刻も過ぐるを遅しと、高野笠を手に持ち、はたはたとしけり。女房、「やれ鶏がはや鳴くげなは」といふ声を合図に、そのまま、「宿(やど)うか」と。

高野聖のついでに。ある公家方へ若き女房たちをば、遊びにとて、呼び給ひつれども、年経りたる一人残されけるに、述懐、

  わたくしは高野聖にあらねどもおいにおいたるゆゑに召さずや

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一 高野の威をかり諸国をありく聖(ひじり)の若(じやく)
  輩なるが一夜の宿をかりけるに亭主は
  るすにてわかき女房の徒(いたづら)さうなるあり
  とかくいひより此ゆふべあはんにさたまれり
  然に女房の指南(しなむ)するやうそちは二階にいね/n7-30l
  よ鶏(にはとり)がなかねばけすどもをいねさせぬ法(ほう)也
  とかたれば聖われは幸(さいわい)鶏の鳴まね上手
  ぞと契約(けいやく)し戌亥(いぬい)の刻も過(すぐ)るを遅(おそ)し
  と高野笠を手にもちはたはたとしけり
  女房やれ鶏がはや鳴けなはといふ声を
  あいつにそのままやどうかと高野ひじり
  のつゐてにある公家(くげ)方へわかき女房達(たち)
  をばあそびにとてよひ給ひつれとも年
  ふりたるひとり残されけるに 述懐(しゆつくわい)/n7-31r
   わたくしは高野聖にあらねども
    おいにおいたるゆへにめさずや/n7-31l
1)
高野山金剛峰寺
2)
高野聖
text/sesuisho/n_sesuisho7-050.txt · 最終更新: 2022/07/29 11:33 by Satoshi Nakagawa