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text:sesuisho:n_sesuisho6-056

醒睡笑 巻6 若道知らず

4 若道にはうとうとしく歌道にはたどたどし文章には暗し・・・

校訂本文

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若道にはうとうとしく、歌道にはたどたどし、文章には暗し。かくても、よき若衆に千松といへるあり。かれにうち惚れ執心あり。「いかがたよりて、言ひ寄らんや。昔より、『歌は鬼神の恐しき心もやはらふる道』とあれば、これなむしるべに」と思ひたち、その道知りたる人に三十一字のさまを問ふ。「それ、歌には六義あり。風(ふう)・賦(ふ)・比(ひ)・興(きよう)・雅(が)・頌(しよう)、これなり。言葉の縁は、梅や桜の花によそへ、思ひの色を言ひつらね、とまりには、『らん』の、『けり』の、『かな』のと、それぞれに置く習ひあり」と教ゆるに、造作もなく得心のふりにて、その暮れに詠みてつかはしたる。

  梅の花桜の花に鶏頭花(けいとうげ)千松恋しなるらんけりかな

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一 若道にはうとうとしく歌道にはたとたとし
  文章にはくらしかくてもよき若衆に千松
  といへるありかれにうちほれ執心ありいかがた
  よりていひよらんや昔より哥は鬼神のおそろ
  しき心もやはらくる道とあれは是なむしるべ
  にと思ひたち其道しりたる人に卅一字のさまを/n6-27l
  とふそれ哥には六儀あり風(ふう)賦(ふ)比(ひ)興(けう)雅(か)頌(しよう)これ
  なり言葉のえんは梅や桜の花によそへ思ひ
  の色をいひつらねとまりにはらんのけりのかなのと
  それそれにをく習ひありとをしゆるに造作も
  なく得心のふりにて其暮によみてつかはし
  たる
   梅のはな桜の花に鶏頭花(けいとうけ)
   千松恋しなるらんけりかな/n6-28r
text/sesuisho/n_sesuisho6-056.txt · 最終更新: 2022/05/03 18:46 by Satoshi Nakagawa