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text:sesuisho:n_sesuisho5-043s

醒睡笑 巻5 上戸

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と云ひも果てぬに十徳衣(き)たる禅門、踈忽(そこつ)に罷り出でて、「拙者は観音参りの次(ついで)にて、人群れ集まり、『何事ぞや』と立ち寄り、性を鎮め聞き居けるが、僧はいつもの長談義、在家は酒の讃に、足も膝も痺(しび)りが切れ、鼻のもとは物ほし棹の一節(ひとふし)を謡ふ声せねど、頭を鼓の打つ様に、目の振舞のをかしさよ。私は下戸にあらず、上戸にて無し。狂歌を申して、無事の媒(なかだち)とせんのみ。

  目出屋那下戸濃立多類倉毛南之上戸能倉裳立和勢禰土毛

  (めでたやな下戸の立てたる倉もなし上戸の倉も立ちはせねども)

僧欺(あざむ)き笑ひて、「歌の内に上戸贔屓(ひゐき)有り。閉口せよ」。件の者、「怕日(かかはゆき)場に指し出でたること、越度(をちど)なるかな」と、赤面して錣係(しこりかかり)ける処に、また霞荢(かすかなる)一閑人出でて云はく、「僧の憤り道有り。自ら筋無き事を申し、試みに伺はん」とて、

  世中尓酒飲人和見天楚与幾得飲奴人裳仁具之登和見須

  (世の中に酒飲む人は見てぞよきえ飲まぬ人もにくしとは見ず)

僧、忿りを止む。俗、略(ほぼ)笑ひ、楽に問訊し、退かんと欲す。

時に俗、沙門に向ひ居処を尋ぬるに、僧、「予は正路山の無欲坊なり。汝は如何なる者ぞ」。俗云はく、「名字は寝起、名は楽兵衛」。聞く人、咄(がつ)と笑つて立ち去りぬ。

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如旦(タタ)飲ンニハト云モ果ヌニ十徳衣(キタル)禅門踈忽ニ罷出拙者ハ観/n5-37l
音参ノ次而人群集何事ソヤト立寄鎮(シツメ)性ヲ聞居ケルカ僧ハイツモノ
長談義在家ハ酒ノ讃ニ足モ膝モ痺(シビリカ)キレ鼻ノモトハ物ホシ
棹ノ一節(フシ)ヲ謡声セネト頭ヲ鼓ノ打ツ様ニ目ノ振舞ノヲ
カシサヨ私ハ非下戸ニ上戸ニテ無シ狂哥ヲ申テ無事之
媒トセンノミ
目出屋那下戸濃立多類倉毛南之上戸能倉裳立和
勢禰土毛 僧欺キ笑テ歌ノ内ニ有上戸贔屓閉口セヨ件ノ
者怕(カカハユキ)日場ニ指出タル事越度ナル哉ト赤面シテ錣係(シコリカカリ)ケル処ニ又霞荢(カスカナル)
一閑人出テ云僧ノ憤有道自無筋事ヲ申試ニ伺ハン斤/n5-38r
世中尓酒飲人和見天楚与幾得飲奴人裳仁具之登
和見須僧止忿俗略咲楽ニ問訊シ欲退ト時俗向沙
門尋ルニ居処ヲ僧予ハ正路山ノ無欲坊也汝ハ如何ナル者ソ俗云
名字ハ寝起名ハ楽兵衛聞人咄(ガツト)笑ツテ立去ヌ/n5-38l
text/sesuisho/n_sesuisho5-043s.txt · 最終更新: 2023/08/16 16:45 by Satoshi Nakagawa