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text:sesuisho:n_sesuisho5-033

醒睡笑 巻5 婲心

33 ことたらず世をわびて住む人の妻あり天然と和歌に心そみ・・・

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ことたらず世をわびて住む人の妻あり。天然(てんねん)と和歌に心そみ、立ち居にこのことのみなれば、夫(おつと)言ふ、「その風流は、かかる貧しき身にさらさら似合はず。二人がともにはしたなくてさへ、危ふかるべき渡世ぞかし。何として添ひは果てまじ。別に厭(あ)く色もなけれど、ただ歌を好けるに厭きたり。暇(いとま)をつかはす」といふ時1)、隣(となり)なる農人の、稲をになひながら立ち寄り、「亭主、さいな言はしましそ。うらがところの子持ちは、歌を詠まず、夜から夜まで働きぬれども、不便(ふべん)さはこれにまさりたる。何もみな前世の約束と見えてあり。女房衆、亭の言ふことに取り合はず、ただ詠みたくは歌読うで、そのひまひまに働き給へ」と言ふに、かの妻、夫(おつと)には取り合はず、隣の男に向かひて、

  ほに出でていねとや人の思ふらんはかなのわれやあきを見ながら

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一 事たらず世をわびてすむ人の妻あり天然(てんねん)
  と和哥に心そみたち居に此事のみなれは
  夫(おつと)いふ其風流はかかるまづしき身にさらさら
  にあはずふたりがともにはしたなくてさへあや
  うかるへき渡世ぞかしなんとしてそひははて
  まし別にあくいろもなけれど唯哥をす/n5-18r
  けるにあきたりいとまをつかはすといふは
  となりなる農人の稲をになひなから立より
  亭主左右ないはしましそうらが処の子
  もちは哥をもよます夜からよるまてはたら
  きぬれどもふべんさはこれにまさりたるなにも
  皆前世のやくそくと見えてあり女房衆亭の
  いふことにとりあはすただよみたくは哥よふで
  その隙々にはたらきたまへといふに彼妻
  夫(おつと)にはとりあはずとなりの男にむかひて/n5-18l
   ほに出ていねとや人のおもふらん
    はかなのわれや秋をみなから/n5-19r
1)
「時」は底本「は」。諸本により訂正。
text/sesuisho/n_sesuisho5-033.txt · 最終更新: 2022/03/01 16:12 by Satoshi Nakagawa