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text:sesuisho:n_sesuisho2-009

醒睡笑 巻2 名付け親方

9 東西わきまへざる男、年も六十に近付きければ・・・

校訂本文

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東西わきまへざる男、年も六十に近付きければ、棄恩入無為(きおんにふむゐ)の心ざしを思ひより、菩提を頼む寺に詣で、しきりに法体(ほつたい)の望みをとげんとす。住持の僧、すなはち髪を剃りて、名をば「法漸(ほふぜん)」と付けたり。

「法とは『のり』。『のり』は続飯(そくいひ)のこと。漸とは『やうやく』。『やうやく』は膏薬(かうやく)のこと」と道すがら覚え、家に帰れば、人みな集まり法名を問ふに、「法漸」と答ふ。「法の字の読みは」。のりを忘れて「そくいひ」と。「漸の字の読みは」。やうやくを忘れ、しばし工夫し「かうやく」とこそ申しけれ。

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翻刻

一 東西わきまへさるおとこ年も六十にちかつき
  けれは棄恩入無為の心さしをおもひより
  ほたいをたのむ寺にまうてしきりにほつたい
  の望をとけんとす住持の僧すなはちかみを
  そりて名をは法漸とつけたり法とは
  のりのりはそくいひのことせんとはやうやく
  やうやくはかうやくのことと道すからおほえ
  家にかへれは人みなあつまり法名をとふに
  法漸とこたふ法の字のよみはのりを忘れ/n2-7l
  てそくいひと漸の字のよみはやうやくを忘れ
  しはしくふうしかうやくとこそ申けれ/n2-8r
text/sesuisho/n_sesuisho2-009.txt · 最終更新: 2021/06/22 13:32 by Satoshi Nakagawa