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text:sesuisho:n_sesuisho1-091

醒睡笑 巻1 ふはとのる

4 卜都検校叡山にて大衆集会のみぎり平家ありし・・・

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卜都検校(ぼくいちけんげう)1)、叡山2)にて大衆集会(だいしゆしふゑ)のみぎり、平家3)ありし。「山法師をりのべ衣うすくして恥をばえこそかくさざりけれ」とあるを、「いかに心の凉しかるらん」となほして語りけり。その時、大衆「あつ」と感じ、平家過ぎて同音に讃めつるを、大きに慢じ山を下りたるが、思ひのほかにはかに日の暮れぬるまま、灯のあるをたより、宿を借りぬ。

亭(てい)出でて挨拶し、すなはち一句所望せしを4)、あなどりて、あそこここ落し語りける時に、亭主、

  鶯の声ばかりして一の谷平家は落ちて聞かれざりけり

この歌を吟ずる間に、もとのごとく天地の明らけし。

これは、この検校自慢の心より、天狗の所為(しよゐ)なりとぞ。

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一 卜都検校(ほくいちけんきやう)叡(ゑい)山にて大衆集会の砌平家
  ありし山法師をりのべ衣うすくして恥(はぢ)を/n1-40l
  はえこそかくさざりけれとあるをいかに心の
  凉しかるらんとなをしてかたりけり其時大
  衆あつと感し平家過て同音にほめつる
  を大に慢し山を下りたるか思ひの外俄に
  日の暮ぬるまま灯のあるをたより宿を
  かりぬ亭出てあいさつし即(すなはち)一句所望せし
  あなどりてあそこここおとしかたりける時
  に亭主
   うくひすの声はかりして一の谷/n1-41r
   平家はおちてきかれさりけり
  此哥を吟するまにもとのことく天地のあきらけし
  是は此検校自慢の心より天狗の所為也とそ/n1-41l
1)
牧一・木一
2)
比叡山延暦寺
3)
平家琵琶
4)
「せしを」は底本「を」なし。諸本により補う。
text/sesuisho/n_sesuisho1-091.txt · 最終更新: 2021/05/06 18:31 by Satoshi Nakagawa