text:senjusho:m_senjusho08-17
撰集抄
巻8第17話(92) 素性事(歌)
校訂本文
昔、素性法師といふ歌詠みの僧侍り。九重の外、大原といふ所に住み侍りけり。花に元亮し、紅葉に優遊すること、隠逸のごとくに侍り。
秋の夜のつれづれに長きに、寝(ね)もせられで、何となく涙ところせきげに侍りき。わくかたなくものあはれなる暁に、松虫の鳴き侍りければ、
いま来んと誰頼めけむ秋の夜を明かしかねつつまつ虫の鳴く
また、枕の下に、きりぎりすの聞こえ侍りければ、
きりぎりすいたくな鳴きそ秋の夜の長き思ひはわれぞまされる
と詠めりける。
「げに」と思えて、あはれに侍り。
翻刻
昔素性法師と云哥読の僧侍り九重の外大 原と云所にすみ侍りけり花に元亮し紅 葉に優遊する事隠逸の如くに侍り秋の 夜のつれつれになかきにねもせられてなに となく泪ところせきけに侍りきわくかたなく/k246r
物哀なる暁に松虫のなき侍りけれは いまこんとたれたのめけむ秋の夜を あかしかねつつまつむしのなく 又枕の下にきりきりすの聞え侍りけれは きりきりすいたくななきそ秋の夜の なかきおもひはわれそまされる と読りける実と覚てあはれに侍り/k246l
text/senjusho/m_senjusho08-17.txt · 最終更新: 2016/09/11 15:40 by Satoshi Nakagawa