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撰集抄

巻7第4話(64) 中算事

校訂本文

昔、山階寺1)に松室といふ所に、仲算大徳とて、いみじき智者いまそかりけり。喜多院の空晴僧都の弟子にておはしけるなり。水の流れより出でき給へる化人とぞ、申し伝へて侍る。

かの人、いまだ空晴僧都の室におはしける時、空也聖人、「法文のこと尋ね奉らん」とて、空晴のもとにいましてけり。をりふし、僧都他行のひまにて、この仲算大徳の童にておはするばかりを留め置きにけり。僧都はものへ出で給ふよしを、空也聖人に聞こえ給ふに、聖、この児のただ一人あることをあはれみて、内に入りて、「あの囲碁盤、取りていませよ。碁打ちて見せ奉らん」とのたまはせければ、仲算、碁盤を取り上げんとし給ふに、さらに上がらざりけるを、聖人見給ひて、「さらば、この念珠を盤の上に置き給へ」とあれば、聖のたまはするままに持て行きて、盤の上に置き給ひたれば、念珠、碁盤の足をうち巻きて、聖の所に持て来たりにけりと、申し伝へて侍り。

「仏法のさまざま、おもしろきものこそなかりけれ」とぞ思え侍る。かの空也聖人は、延喜2)第五の皇子とも申す。『誓勘抄』には「化人」と注(しる)せり。かやうに悟りを開き給ふ人の前には、心なき念珠までも、その徳をあらはすこと、不思議にしも侍らじかし。

翻刻

昔山諧寺に松室といふ所に仲筭大徳とてい/k203l
みしき智者いまそかりけり喜多院の空晴僧
都の弟子にておはしける也水の流より出き給
へる化人とそ申伝て侍る彼人いまた空晴僧都
の室におはしける時空也聖人法文の事尋奉
らんとて空晴のもとにいましてけりおりふし
僧都他行のひまにてこの仲筭大徳の童にて
おはするはかりをととめ置にけり僧都は物へ出
給ふよしを空也聖人に聞え給ふに聖此児
の只独りある事をあはれみて内に入てあの囲
碁盤取ていませよ碁うちて見せ奉んとの/k204r
給はせけれは仲筭碁はんを取あけんとし給ふに
更にあからさりけるを聖人見給ひてさらは此念珠
を盤の上に置給へとあれは聖の給はするままにも
てゆきて盤の上に置給ひたれは念珠こはんの
足をうちまきて聖の所に持て来りにけりと
申伝て侍り仏法の様々おもしろき物こそなかり
けれとそ覚侍る彼空也聖人は延喜第五の皇子
とも申誓勘抄には化人と注せりかやうに悟を
開き給ふ人の前には心なき念珠まてもその徳
をあらはす事不思義にしも侍らしかし延喜の御/k204l
1)
興福寺
2)
醍醐天皇
text/senjusho/m_senjusho07-04.txt · 最終更新: 2016/08/12 23:35 by Satoshi Nakagawa
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