text:mumyosho:u_mumyosho052
無名抄
第52話 思余比自然に歌詠まるる事
校訂本文
思余比自然に歌よまるる事
また、心にいたく思ふことになりぬれば、おのづから歌は詠まるるなり。金葉集に「よみ人知らず」と侍るかとよ。
身の憂さを思ひしとけば冬の夜もとどこほらぬは涙なりけり
この歌は、仁和寺の淡路の阿闍梨(あざり)といひける人の妹のもとなりけるなま女房の、いたく世をわびて詠みたりける歌なり。もとより歌詠みならねば、また詠める歌もなし。ただ思ふあまりに、おのづからいはれたりけるにこそ。
翻刻
思余比自然ニ哥ヨマルル事/e45r
又心にいたくおもふことになりぬれはおのつから哥は よまるる也金葉集によみ人しらすと侍かとよ 身のうさをおもひしとけは冬の夜も ととこほらぬはなみたなりけり この哥は仁和寺のあはちのあさりといひける人のいも うとのもとなりけるなま女坊のいたく世をわひて よみたりける哥也もとより哥よみならねは又よめる 哥もなしたたおもふあまりにおのつからいはれたり けるにこそ/e45l
text/mumyosho/u_mumyosho052.txt · 最終更新: 2014/10/01 15:56 by Satoshi Nakagawa