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text:mogyuwaka:ndl_mogyuwaka08-01

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蒙求和歌

第8第1話(111) 范蠡泛湖

校訂本文

范蠡泛湖

范蠡、越王勾践に仕へて、世の政を行ひけり。呉王夫差と戦(いくさ)を争ふほど数十年、心を一つにして、会稽の恥を清めてけり。

国を授けけれども、受け取らずして、閑かに世をわたらむとする。勾践、ねむごろに惜しめども、しひて去りぬ。人をやりて留むれども、「われ、君のために忠深かりき1)。暇(いとま)を賜はらむを報いとせむ」と言ひて、つひに帰らず。湖上に舟を浮べて、舟の内に、閑かに世をわたりて、心のままに遊びけり。

勾践、昔の忠のむなしかるべきことを憂へて、会稽山を給ひけり。後に陶に行きて、朱公と言へり。陶は天下の最中なるかゆゑに、商ひに便ありけり。その利、十九年の中に、三度(みたび)千金をそなへけり。再びは別ちて、貧しき友、親しき縁(ゆかり)にぞ与へける。

老子は、漢武帝の時は東方朔といひ、文帝の時は河上公といひ、斉の時は陶朱公といひ、越の時は范蠡といへり。漢高祖の時は蕭何といひ、周の時は大公望といひ、尭の時は四嶽2)といひ、黄帝の時は風詔といひ、伏羲の時は勾亡といへり。すべて万八千歳を重ねたり。

  雲騒ぐ都の空を隔て来てのどかにすめるさざ波の月

翻刻

范蠡泛湖  范蠡越王句践につかへてよの政を/をこなひけり呉王夫(ふ)差(さと)いくさを
あらそうほと数十年心をひとつにして会稽のはちをき
よめてけり国をさつけけれともうけとらすしてしつかに/d2-2l
よをわたらむとする句践ねむころにをしめともしゐて
さりぬ人をやりてととむれともわれきみのために忠かかりき
いとまをたまはらむをむくゐとせむと云てついにかへらす
湖上に舟をうかへて舟の内にしつかによをわたりて心のままに
あそひけり句践昔の忠の空しかるへき事をうれへて
会稽山を給ひけり後に陶にゆきて朱公と云へり陶は
天下の最中なるかゆへにあきなひに便ありけりその利
十九年の中にみたひ千金をそなへけりふたたひはわかち
てまつしきともしたしきゆかりにそあたへける
  老子は漢武帝の時は東方朔と云ひ文帝の時は
  河上公と云ひ斉の時は陶朱公と云越時范蠡と云へり
  漢高祖の時蕭何と云ひ周の時大公望と云尭の時は
  四獄と云黄帝時風詔と云伏羲の時は勾亡と
  云へりすへて万八千歳をかさねたり/d2-3r
  くもさはくみやこのそらをへたてきて
  のとかにすめるささなみの月/d2-3l
1)
「忠深かりき」は、底本「忠カカリキ」。
2)
「四嶽」は底本「四獄」。
text/mogyuwaka/ndl_mogyuwaka08-01.1515393392.txt.gz · 最終更新: 2018/01/08 15:36 by Satoshi Nakagawa