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蒙求和歌

第2第15話(35) 魏顆結草 夏草

校訂本文

魏顆結草 夏草

魏顆は武子1)が子なり。武子、寵妾ありけり。武子2)、病付きけるはじめに、魏顆を呼びて、「われ死なん3)後には、この妾をなんぢが妻にして、いとほしくせよ」と言ひけり。

その後、病重くなりて、もとの心も忘れて、「われ死なば、妾をも殺して、同じ棺(ひつ)に入れよと云て、武子、死にけり。魏顆、思はく、「狂乱の時の事をもちゐるべき4)にあらず。正念の言葉に従はむ」と思へり。さて、妻(め)にしてけり。

後に、秦の国と、晋の国と、乱れ戦ふに、魏顆、晋の将として、秦の旅宿の夢の内に、一人の翁、草を結びて、秦の軍(いくさ)を防ぎて去りぬ。朝(あした)に、秦の軍、おほきに敗れにけり。

その夜(よ)の夢に、この翁、また来たりて、「われは、なんぢが妻の父なり。なんぢ、道を知り悟り5)あるゆゑに、わが娘を殺さざりし。嬉しさを、来たりて報いつるなり」と言ひつつ去りぬ。

覚めて後、このことを思ひ合せけり。

  夏草のなびく末葉(すゑば)を見つるかなしげみを結ぶ夢の枕に

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魏顆結草 夏草
魏顆ハ武士カコナリ武士寵妾アリケリ武子病ヒツ
キケルハシメニ魏顆ヲヨヒテ我死ナ後ニハコノ妾ヲ汝カ妻ニシテ
イトヲシクセヨト云ケリソノノチヤマイヲモクナリテモトノ心モ
ワスレテ我レ死ナハ妾ヲモコロシテヲナシヒツニイレヨト云テ武子
シニケリ魏顆ヲモハク狂乱ノ時ノ事ヲモチヰヘキニア
ラス正念ノコトハニシタカハムトヲモヘリサテメニシテケリ後ニ
秦ノ国ト晋ノ国トミタレタタカフニ魏顆晋ノ将トシテ秦ノ
旅宿夢ノ内ニヒトリノヲキナ草ヲムスヒテ秦ノイクサヲフ
セキテサリヌアシタニ秦ノイクサヲホキニヤフレニケリ
ソノヨノユメニコノヲキナマタキタリテ我ハ汝カ妻ノチチナリ/d1-20r
汝道ヲシリサトアルユエニワカムスメヲコロササリシウレシ
サヲキタリテムクヰツルナリトイヒツツサリヌサメテノチ
此事ヲ思ヒ合セケリ
  夏草ノナヒクスヘハヲミツルカナシケミヲムスフ夢ノ枕ニ/d1-20l
1)
底本「武士」。魏武子・魏犨。底本では「武士」と「武子」が混在するが、すべて「武子」に統一する。
2)
底本「武子」
3)
「死なん」底本「ん」なし。書陵部本(桂宮本)により補入。
4)
「もちゐるべき」は底本「モチヰベキ」。
5)
「悟り」は底本「サト」。書陵部本(桂宮本)により「リ」を補入。
text/mogyuwaka/ndl_mogyuwaka02-15.txt · 最終更新: 2017/10/24 16:34 by Satoshi Nakagawa
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