史丹青蒲　花

史丹、字は君仲、魯国の人なり。賢人として、忠臣たりき。しきりにうつりて侍中たり。

時に、元帝、太子を捨てて、定陶王¹⁾に位を譲らむとす。このこと、世に聞こえて、人おほきにかたぶけども、言葉を出だす者なし。

史丹、おほやけの御とのごもれる内に入りて、青蒲の上に伏して、「皇儲²⁾定まりにし上に、横ざまの政(まつりごと)出で来たらば、³⁾国に世の乱れとなるべし」と泣く泣くいさめ申しければ、おほやけ、これにしたがひ給ひけり。

　　青蒲は荒き蒲(がま)の筵(むしろ)なり。また、青規の地を青蒲といふなり。

　　いたづらに春の⁴⁾主(あるじ)をたづぬらむ春の深山(みやま)の道を忘れて

史丹青蒲 花
史丹字君仲魯国人也賢人として而忠臣たりき
頻にうつりて侍中たり時に元帝太子をすてて定陶王に位を
ゆつらむとす此事世に聞へて人をほきにかたふけともこと
はを出す者无史丹をほやけの御とのこもれる内に入て青
蒲のうゑにふして皇儲きさたまりにしうゑによこさまの
まつりこと出きたらはす国に世のみたれと成るへしとなくなくい
さめ申けれはをほやけ此に随ひ給けり
  青蒲はあらきかまの筵なり又青規の地を青蒲と云也
  いたつらに春のあるしをたつぬらむ春のみやまのみちをはすれて／d1-9l