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古本説話集

第68話 小松の僧都の事

小松僧都事

小松の僧都の事

校訂本文

今は昔、小松の僧都と申す人おはしけり。また小法師にての折、山より鞍馬へ参り給ひけり。

「三日ばかり参らん」とて、「同じくは七日参らん」とて、参り給ふほどに、三七日に延べて、「同じくは夢なと見るまで」とて、百日参り給ふほどに、夢見ねば、二三百日参りて、同じくは千日参るに、夢見ねば、「さりとては、いかでかさるやうはあらん」とて、二千日参るほどに、なほ夢見ねば、三千日参り歩くに、夢見えず。はかばかしくなるとはおぼゆることもなし。

「縁こそはおはしまさざるらめ。この御寺見むこと、ただ今宵ばかりなり。ただ三千日、ことなく参り果てたるをにてあらん」とて、行ひもせず、額(ぬか)もつかで、苦しければ、より臥して、よく寝入りにけるに、夢に見るやう、御帳の帷(かたびら)をひき開けて、「まことにかく年ごろ参り歩きつるに、いとほし。これ得よ」とて、物を賜べば、左右(ひだりみぎ)の手を広げて給はれば、白き米をひと物入れさせ給へりと見て、驚きて、手を見れば、まことに左右の手にひと物入りたり。

「あないみじ」と思ひて、「夢見てはとくこそ出づなれ」とて、やがて出づるに、後ろにそよと鳴りて、人の気色、足音す。「あやし」と思ひて、見返りたれば、毘沙門(ひさもむ)の矛(ほこ1)を持ちて、送り給ふなりけり。御顔をば外(ほか)ざまに向けて、矛して「とく行け」とおぼしくて、突かせ給ふと見て、急ぎて出でにけり。

さてより後、ただすずろに、おのづから、「物を食はばや」と思へば、めでたくし据ゑて、きとは得ぬ。「手もあらばや」と思へば、すずろに出で来。衣(きぬ)も何も、「着む」と思へば、ただ思ふに従ひて様々に出で来ければ、せん方もなく、楽しき人にてをはしけり。

さて、夢に見えさせ給ひしままに、そがままに参り給へりたりなるあり。白き米はまだ納めてありとぞ、言ひ伝へる。

さても、絵に描く僧正までになりて、小松僧正とて楽しき人にておはしけるなり。

翻刻

いまはむかしこまつの僧都と申人おはし
けりまたこ法師にてのをり山よりくらまへま
いり給けり三日はかりまいらんとておなしくは七日ま
いらんとてまいり給ほとに三七日にのへてをなしく
はゆめなとみるまてとて百日まいり給程にゆ
めみねは二三百日まいりてをなしくは千日まいるに
ゆめみねはさりとてはいかてかさるやうはあらんとて
二千日まいるほとになをゆめみねは三千日まいり/b259 e132
ありくにゆめみえすはかはかしくなるとはお
ほゆることもなしえんこそはおはしまささるら
めこの御てらみむことたたこよひはかり也たた三千
日ことなくまいりはてたるをにてあらんとて#本を消して本を傍書?
おこなひもせすぬかもつかてくるしけれはよりふ
してよくねいりにけるにゆめにみるやう御ち
やうのかたひらをひきあけてまことにかくとし
ころまいりありきつるにいとをしこれえよとて
物をたへはひたりみきのてをひろけて給はれはしろ
きこめをひと物いれさせ給へりとみてをとろきて/b260 e133
てをみれはまことにひたりみきのてにひと物いり
たりあないみしと思ひてゆめみてはとくこそい
つなれとてやかていつるにうしろにそよとなり
て人のけしきあしをとすあやしと思ひて
みかへりたれはひさもむのふくをもちてをくり給な
りけり御かほをはほかさまにむけてほこして
とくいけとおほしくてつかせ給とみていそきて
いてにけりさてよりのちたたすすろにをのつから
物をくははやと思へはめてたくしすゑてきとはえぬ
てもあらはやとおもへはすすろにいてくきぬも何も/b261 e133
きむと思へはたたおもふにしたかひてさまさまに
いてきけれはせんかたもなくたのしき人にてを
はしけりさてゆめにみえさせ給しままに
そかままにまいり給へりたりなるありしろきこめは
またおさめてありとそいひつたへるさても
ゑにかく僧正まてになりて小松僧正とてたのし
き人にておはしけるなり/b262 e134
1)
底本「ふく」
text/kohon/kohon068.txt · 最終更新: 2014/09/21 13:31 by Satoshi Nakagawa
CC Attribution-Share Alike 4.0 International
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