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text:k_konjaku:k_konjaku9-43

今昔物語集

巻9第43話 晋献公王子申生依継母麗姫讒自死語 第卌三

今昔、震旦の代に、献公と云ふ国王有り。其の王子に、申生と云ふ人有けり。此れは、献公の三人の子の中の、第三の皇子也。母をば、斉姜と云ふ。其の人、死せり。然れば、申生、母を恋ひ悲む事限無し。

其の時に、父の王、一の女を以て、姓を賜て、后とす。騏の氏、此れ也。名をば麗姫と云ふ。亦、其の后の腹に皇子有り。名を奚斉と云ふ。母麗姫、嫉妬の心有て、継子の申生を憎くむで、「我が子の奚斉を、太子に立む」と思ふ心有り。

麗姫、申生に語て云く、「我れ、昨日の夜、夢に見る。汝が母、斉姜、死て後ち、飢渇の苦有り。速に酒を以て、彼の墓に行て祭るべし」と。申生、此れを聞て、泣き悲むで、忽に酒を以て墓に行かむと為るに、麗姫、密に毒を以て、構て、其の酒の中に入れつ。

申生に語て云く、「汝ぢ、酒を祭り畢て後、余れらむ酒を、汝ぢ呑まざらむ前に、返て、父の王に奉れ」と。申生、此の構ふる事を知らずして、其の教へに随ひて、酒を祭り畢て、其の余れるを、返て、父の王に奉れり。

父、此れを呑むと為るに、麗□□□□□□1)時に、麗姫、此れを見て、詐を以て、泣き叫で云く、「父は子を養はむとす。子は父を殺とす。此れ、毒なりけり。我れ、暫く留めて、王に此れを呑ましめず。喜□□」。

申生、此れを聞て、忽に自害せむと為るに、一人の人有て、申生を誘(こしら)へて云く、「君、死て罪に入らむよりは、如かじ、生て誤たざる事を顕はせ」。申生の云く、「自ら此の事を糺さば、麗姫、必ず罪み無からむや。然れば、只、我は孝の為に、命を捨む」と云て、遂に死にけり。

「此れ偏に、継母の謀に依て死せる也」と皆人知にけりとなむ、語り伝へたるとや。

1)
鈴鹿本、空白に以下の文が続く。「姫、□□へて云く、「外より持来れる物をば、輙(たやす)く呑まざれ。試に人に呑ましめむ」と云て、青衣に呑ましむ。青衣、此れを呑て、即ち死ぬ。其の
text/k_konjaku/k_konjaku9-43.txt · 最終更新: 2017/03/05 13:51 by Satoshi Nakagawa