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今昔物語集

巻9第39話 震旦卞士瑜父不償功成牛語 第卅九

今昔、震旦の揚州に、卞の士瑜と云ふ人有けり。其の父、隋の代に有て、陳を平げたる功を以て、儀同を授たり。其の人、本より性慳恡也。

而るに、昔、人を雇て、家を造らせて、其の功を価1)(つぐなは)ざりけるに、彼の作たる人来て、銭を乞けるを、士瑜が父、此れを打つ。作たる人、子をも親をも大に怨て云く、「汝、実に我が物を負て価はず。此に、汝、当に死して、我が家の牛と成るべし」と。

其の後、士瑜が父、死ぬ。

而る間、彼の作れる人の家なる母牛、孕て、一の黄なる犢を生ぜり。其の犢の腰に、黒き文有り。横さまに絡(まとひ)て廻れる事、人の腰に帯をしたるが如し。亦、左の跨(また)に白き文有り。斜貫大小正しく、形笏の如し。

牛の主、此れを見て、牛を喚て云く、「卞公、何ぞ我が物を負て、償はずして、既に牛と成れる」と。其の時に、牛の子、即ち前の二の膝を屈(かがめ)て、頭を以て地を叩く。牛の主、此れを見て、「定て、此れ士瑜が父の成れる」と知ぬ。

士瑜、此れを聞て、即ち、銭十万を以て此れを償ふに、牛の主、許さず。牛、即ち死ぬ。

此れを以て思ふに、人を仕ては、必ず其の功を償ふべしとなむ、語り伝へたるとや。

1)
底本頭注「価一本贖ニ作ル下同ジ」
text/k_konjaku/k_konjaku9-39.txt · 最終更新: 2017/03/03 18:54 by Satoshi Nakagawa
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