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text:k_konjaku:k_konjaku9-23

今昔物語集

巻9第23話 京兆潘果抜羊舌得現報語 第廿三

今昔、震旦の□□代1)に、京兆に潘果と云ふ人有けり。未だ弱冠にして、武徳の間に、都水の小吏に任ぜり。

下り帰て、里の中の少年の輩数人と共に、田の中に出でて、遊戯す。家に帰る間、潘果、見れば、一の羊、牧人の為に遣はれて、独り草を食て立てり。

潘果、里の年少の輩と共に、此の羊を取て、窃に家に将来らむと為るに、其の羊、路中にして鳴く。潘果、羊の音を人の聞かむ事を懼て、忽に其の羊の舌を抜き捨つ。然れば、羊、音無くして、家に帰ぬ。夜に至て、此れを殺して、煮て食しつ。

其の後、一年を経て、潘果が舌、漸く欠て、落て、遂に消失ぬ。然れば、潘果、陳牒して、職を罷つ。

其の時に、富平県の尉、鄭餘慶と云ふ人、潘果が舌を、「此れ詐か」と疑て、口を開かしめて、此れを見るに、全く舌無し。舌の所を見るに、纔に大豆許也。此れを見て、怪で問ふに、潘果、前の羊の舌を抜き捨たる事を答ふ。県官の云く、「汝ぢ、重罪を犯せり。豈に、其れを感ずるに非ざらむや。速に、彼の羊の為に、追て善根を修せよ」と。

潘果、県官の教に依て、彼の羊の為に、大に善根を修す。亦、自ら五戒を受て、専ら仏法を信ず。其の後、一年を経て、潘果が舌、漸く生じ尋で、平復する事、本の如し。

其の時に、潘果、喜びを成して、県に詣でて、自ら県官に此の事を語る。県官、此れを聞て、喜ぶ事限無くして、里の正と用る。

聞く人、且は現報を感ぜる事を怖れ、且は善根の新なる事を貴ぶ。餘慶、貞観十八年に監察の御史として語るを聞て、語り伝へたるとや。

1)
底本頭注「代ノ上唐ノトアルベシ」
text/k_konjaku/k_konjaku9-23.txt · 最終更新: 2017/02/11 16:06 by Satoshi Nakagawa