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今昔物語集

巻9第22話 震旦兌州都督遂安公免死犬責語 第廿二

今昔、震旦に、兌州1)の都督、遂の安公、李寿は、始め宗室と云を以て王に封ず。貞観の始に職を罷めて、京の第に還る。此の人、本より、性田猟を好て、常に鷹を多く聯たり。然れば、犬を殺して、鷹に飼ふを以て役とす。

而る間、安公、忽に身に重き病を受て、死たるが如し。夢の如くに見れば、五の犬出来て、我が命を責む。安公、犬に向て云く、「汝等を殺せる事は、我が従者通達が過也。更に我が罪に非ず」と。犬の云く、「通達、豈に自らが心に任せて殺む。亦2)、我等は他の食を盗まず。只、門より過るを、狂3)(たはぶれ)に我等を殺す。必ず其の事を報ぜむと思ふ」と。

安公の云く、「我れ、罪を謝して、汝等が為に追て善を修せむ」と請ふに、四の犬は既に此の事を許す。一の白き犬有て、此の事を許さずして云く、「我れ、既に罪無くして殺さる。亦、未だ死せざりし時に、汝ぢ、我が肉臠を割て、苦しび痛む事限り無き。其の恨み、忘れ難し。我れ、此の事を思ひ出づるに、何ぞ許す事有らむや」と。

其の時に、俄に一人出来て、犬に請ふて云く、「汝等、讐を報じて、此の人を殺せりと云ふとも、豈に、汝等が為に益有らむや。遂に免るべし。此の人、汝等が為に善を修せむに、善き事に非ざらむや」と。

其の時に、其の許さざる一の犬も、此れを聞て、「許す」と思ふ間に、安公、活(いきかへ)れり。然れども、支体4)、猶安からずして、心、思ひの如くに無し。其の後、安公、犬の為に専に善を修しけり。但し、病、遂に善く止まず。

然れば、殺生の罪み、極て重し。人、此れを聞て、永く殺生を止むべしとなむ、語り伝へたるとや。

1)
底本頭注「兌ハ兗或ハ交ノ誤カ下同ジ」
2)
底本頭注「任以下ノ六字一本ニ拠リテ補フ」
3)
底本頭注「狂諸本枉ニ作ル」
4)
底本頭注「支諸本身ニ作ル」
text/k_konjaku/k_konjaku9-22.txt · 最終更新: 2017/02/09 21:52 by Satoshi Nakagawa
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