text:k_konjaku:k_konjaku9-10
今昔物語集
巻9第10話 震旦顔烏自築墓語 第十
今昔、震旦の東陽と云ふ所に、顔烏と云ふ人有けり。幼稚の時より孝養の心深し、
而る間、其の父死せり。顔烏、此れを葬(はふり)して、墓を築(つか)むと為るに、自ら一人して、土を負ひ運て、更に他の人の力を加えしめず。然れば、其の事成り難し。
而る間、天地、此の事を助けて、忽に、千万の烏、其の所に集り来て、各塊(つちくれ)を含て、顔烏が墓を築く所に置く。此れに依て、墓、心の如くに疾く成ぬ。
即ち、顔烏、其の烏を見るに、烏毎に、口より血出たり。然ば、含める所の塊に、皆血付たり。見聞く人、此れを、「奇異也」と思て、孝養の心の深き事を貴びけり。
此れに依て、其の県を名付て、「烏傷県」と云ふ。其の後、王莽の時に改めて、烏孝県と云ふ。孝行の深きを烏の示したれば、烏孝県とは云ふ也となむ、語り伝へたるとや。
text/k_konjaku/k_konjaku9-10.txt · 最終更新: 2017/01/26 12:21 by Satoshi Nakagawa