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今昔物語集

巻7第45話 震旦幽州僧知菀造石経蔵納法問語 第卌五

今昔、震旦の幽州と云ふ所に、知菀と云ふ僧有けり。心に悟り有て、経教を学ぶ事、専に誓ひ弘し。

其の人、隋の大業の代に、心を発して、石の経蔵を造る。此れ偏に、法の滅せむ時、遥に法を世に伝へむが為也。幽州の北の山に巌を穿て、石の室とす。四の壁を磨て、其の面に経を文を写す。亦、方なる石を磨て、其の面に、更に経の文を写して、諸の室の内に納む。此の如く、室毎に満て、石を以て戸を塞ぐ。猶し、鉄を以て塞たらむよりも固し。

其の時に、史の侍郎蕭瑀と云ふ人有り。心に仏法を厚く信ず。此の知菀が石の経蔵を造て、経教を納め置く事を貴て、□□1)申して、絹千疋を施さしむ。亦、銭を施して、此れを助成せしむ。亦、蕭瑀、絹五百疋を施す。惣て、国王より始て、百姓等、皆此の事を聞て、争て、各物を施す事、雨の如し。

然れば、知菀、此等を得集めて、其の事を心の如く遂げむ。其の役の工、既に多し。其の時に、道俗、集り来て、其の巌の前に、木を以て、仏の堂、并に食堂・廊を造らむと為るに、其の所に、木・瓦の得難き事を思ひ歎く。軽物を分て交易するに、其の費多かり。

然れば、未だ造らざる間に、一夜、俄に雨降り、雷電して、山を振ふ事有り。明る朝に見れば、山の麓に大きなる松栢、千の株、水の為に流れて、道の辺に積めり。山の東に材木少くして、松栢、極て希也。

道俗、驚き騒て、何こより来れりと云ふ事を知らず。迹を尋ぬるに、西の山より、峯崩れ、木倒れて、此の所に送り来れり。遠く近き人、皆此の事を見聞くに、喜び感ずる事限無し。此れ偏に、神の助けと知ぬ。

知菀、工を遣て、其の木を皆撰び取て、余たるをば、郡郷に分ち与ふ。然れば、郡郷の人、皆喜びを成して、相共に此の堂を助け造る間に、皆、心の如く造り得つ。

知菀が造れる所の石の経、既に此の七の堂に満れば、知菀、願の満ぬる事を喜て、遂に死ぬ。其の後は、弟子有て、其の功を継て、猶勤め怠らざりけりとなむ、語り伝へたるとや。

1)
底本頭注「貴テノ下后ニトアルベシ」
text/k_konjaku/k_konjaku7-45.txt · 最終更新: 2017/01/15 12:51 by Satoshi Nakagawa
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