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今昔物語集

巻7第41話 震旦仁寿寺僧道愻講涅槃経語 第卌一

今昔、震旦の蒲州と云ふ所に、仁寿寺と云ふ寺有り。其の寺に、道愻と云ふ僧住けり。若より智(さと)り深く、心弘くして、人を憐ぶ。然れば、国・郷、挙て道愻を崇め貴ぶ事限無し。此の人、生中に、涅槃経を講じ奉る事、八千余返也。

其の時、崔の義真と云ふ人有り。虞郷の令として郷に有るに、郷の人を以て、道愻を請じて、経を講ぜしむ。

道愻、高座に登て、始て題を発せるに、先づ泣き悲む事限無くして、諸の人に告て云く、「仏、世を去給て、遥に遠し。然れば、妙なる言、隠れ絶にき。愚なる身に伝ふる所、善き言に足らず。只、深き心を以て敬ひ向ふ。自ら悟るべし。師子の時に至て、講じ説き止なむとす。日、既に近付ぬ。願くは、各、心に存すべし」と説くを、人、何事を説くと云ふ事を知らず。

既に講ずる事、師子の時に至て、道愻、病無くして死ぬ。其の時に、其の庭に、道俗男女、皆驚き騒ぐ事限無し。

義真、并に眷属等、集て、南山1)と云ふ所に、道愻が身を隠し埋て、各去ぬ。此の事、□月の事也。

其の後、十一月に成て、地凍たりと云へども、其の道愻が死屍、地より出たり。其の地に花生たり。蓮花の如くして小し。頭、及び手足に、各(おのお)の一の花有り。義真、此れを怪むで、人を置て護らしむ2)る者、夜る睡れる間、人有て、其の頭の花を盗み折取つ。

其の朝に此れを見るに、亦、身を周て、花生ひ出たり。五十余茎也。七日有て、萎み乾れぬ。

義真、并に郷の道俗、皆此れを見て、「奇異也」と貴ぶ事限無しと、語り伝へたる也けりとや。

1)
終南山
2)
底本頭注「令護ノ下護字ヲ脱セルカ」
text/k_konjaku/k_konjaku7-41.txt · 最終更新: 2017/01/09 18:07 by Satoshi Nakagawa
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