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今昔物語集

巻7第29話 震旦都水使者蘇長妻持法花免難語 第廿九

今昔、震旦の□1)の代に、都水の使者に、蘇長と云ふ人有けり。武徳の間に、巴州の刺史と為(なれ)り。

然れば、蘇長、妻子・眷属を相ひ具して、彼の州へ趣くに、嘉陵の江の中流を渡る間、俄に風出来て、既に船没しぬ。然れば、船に乗れる所の男女六十余人、一時に溺て死ぬ。

其の中に、蘇長が妻、一人生て、水に浮て有り。其の妻、常に法花経を読誦し奉けり。船の中にして、水に入る時に、此の妻、法花経を入れ奉る所の経箱を相具し奉れるを、急ぎ取て、首に戴き奉て、誓を発して、共に没しぬ。

既に没しぬる時に、船の中の人、蘇長を始め、皆没して死ぬと云へども、此の妻一人沈まず。然れば、浪に随て浮ぶ間に、自然ら岸に付ぬ。亦、其の経箱も浮て出たり。其の箱を開て見るに、入給へる所の経、聊に湿汙(ぬれけがれ)給ひたる事無し。

遠く近く此の事を見聞くに、人、法花経の威力の空しからざる事を敬ひ貴び奉けり。

其の経、于今、猶揚州に在ます。彼の妻、其の後、人の妻と成て有り。弥よ法花経を篤く信じ奉て、読誦し、恭敬礼拝し奉りけりとなむ語り伝へたるとや。

1)
底本頭注「震旦ノノ下唐トアルベシ」
text/k_konjaku/k_konjaku7-29.txt · 最終更新: 2017/01/04 15:38 by Satoshi Nakagawa
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