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今昔物語集

巻7第23話 震旦絳州孤山僧写法花経救同法苦語 第廿三

今昔、震旦の絳州に孤山有り。永徽の比、二人の僧、彼の山に有て、同房に住す。一人の名をば、僧行と云ふ。三階の仏法を行ふ。一人の名をば、僧法と云ふ。法花三昧を行ふ。二人、共に仏法を修行して、皆出離の計を求む。

而るに、僧行、前に死せり。其の後、僧法、観世音菩薩に祈請して、「僧行が生所を知らむ」と思ふ。

三年を経て後、僧法、夢に忽に地獄に至て見るに、猛火盛にして、近付くべからず。鉄の網、七重に其の上に覆へり。鉄の扉、四面に開き閉て、甚だ固し。其の中に、百千の僧の、浄戒を犯し、身心を調へざる、皆堕て苦を受くる事無量也。

其の時に、僧法、獄卒に問て云く、「此の中に僧行と云ふ僧有りや否や」と。獄卒、答て云く、「有り」と。僧法、云く、「我れ、彼の僧行を見むと思ふ」と。獄卒、答て云く、「彼れ、罪重し。更に見るべからず」と。僧法云く、「我等は此れ仏子也。何ぞ、固く此れを惜むぞ」と。其の時に、獄卒、鋒を以て、黒き炭を貫て、「此れ僧行也」と云て、僧法に見しむ。僧法、此の黒き炭を見て、泣き悲て云く、「沙門僧行、何ぞ仏子として、此の苦を受るぞ。願くは、『我れ、昔の形を見む』と思ふ」と。

其の時に、獄卒、「活(いきかへ)れ」と云ふに、黒き炭、忽に変じて、昔の僧行が形と成ぬ。但し、身体皆焼け爛たる事限無し。僧法、此れを見て泣き悲む。僧行、僧法に語て云く、「汝ぢ、当に我が此の苦を救ふべし」と。僧法が云く、「何が此れをば救ふべき」と。僧行が云く、「我が為に法花経を書写すべし」と。僧法云く、「何が書写すべき」と。僧行云く、「一日の中に一部を書写すべし」と。僧法云く、「我れ、貧道にして、何ぞ一日の中に書畢らむや」と。僧行云く、「我が此の苦堪へ難くして、刹那の間も忍ぶべからず。然れば、一日の猛利の行に非ずば、豈に苦を息む事を得むや」と云ふと見て、夢覚ぬ。

僧法、即ち、衣鉢を投棄て、書生四十人を雇て、一日の中に法花経一部を書写し畢て、心を至して、僧行が為に供養しつ。

其の夜、或人の夢に、「僧行、忽に地獄を離れて、忉利天に生ぜり」と見けりとなむ、語り伝へたるとや。

text/k_konjaku/k_konjaku7-23.txt · 最終更新: 2016/12/25 14:14 by Satoshi Nakagawa
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