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今昔物語集

巻6第29話 震旦汴州女礼拝金剛界得活語 第廿九

今昔、震旦の汴州に一人の女有けり。愚痴・不信にして、因果を識る事無し。

而る間、年五十七と云ふ年、身に病を受て、日来重く悩乱して、終に死ぬと云へども、相ひ副へる人無が故に、此れを見る人無し。六日を経て、活(いきかへり)て、涙を流す事雨の如して、身を大地に投て、過を悔て、自ら身を責む。

其の時に、傍の人、此れを聞て、行て、問て云く、「汝ぢ、何の故有て、此の如き身を投て泣くぞ」と。女、答て云く、

「我れ死て、不思議・希有の事を見つ。我れ、初め死せし時、鉄の火有て、地獄に迸り入る。獄卒有て、我れを地獄の中に投るに、地獄、返て華の池と成ぬ。火・湯、凉き水の如し。多の罪人、皆華の上に坐す。獄卒、此れを見て、希有の心を発して、閻魔王に此の由を申す。

王、此れを聞き給て、一巻の書を検(かんがへ)て、宣はく、『此の女人、昔し誓弘和尚の室にして、金剛界の大曼陀羅灌頂壇場を礼拝したりき。其の功徳に依て、此の女人の地獄に堕つる故に、此の事有る也。汝ぢ、罪人に非ず。速に人間に還るべし』と。此の事を見て、活る事を得たる也」

と語て、泣く事限無し。

此れを聞て、心を発して、金剛界の曼陀羅を礼拝し奉る人多かりけりとなむ、語り伝へたるとや。

text/k_konjaku/k_konjaku6-29.txt · 最終更新: 2016/10/29 15:58 by Satoshi Nakagawa
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