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今昔物語集

巻31第34話 大和国箸墓本縁語 第卅四

今昔、□□天皇と申ける帝、一人の娘(いらつめ)御けり。形ち・有様端正也ければ、天皇・母后、悲び傅き給ふ事限無し。

此の娘、未だ娶(とつぎ)給ふ事も無き間に、誰とも知らぬ人の極く気高き、娘の御許に忍て来て云く、「我れ、君と夫妻と成らむと思ふ」と。娘の宣はく、「我れ、未だ男に触這ふ事無し。何(いかで)か輙く君の言ばに随はむ。亦、父母に此の由を申さずしては有るべからず」と。男の云く、「譬ひ父母知給へりとも、悪き事有らじ」と。此の如く夜々(よなよな)来て語ふと云へども、近付く事無し。

而る間、娘、天皇に申し給ふ。「然々の有る人なむ、夜々来て此の如く申す」と。天皇の宣はく、「其れは人には非じ。神の来宣ふ事ななり」と。

然る程に、娘、遂に近付き給ひにけり。其の後は互に相思て過給ひけるに、誰人とも知らねば、女、男に申し給ふ様、「我れ君を誰とも知らねば、極て不審(おぼつかな)し。何くより御するぞ。我れを実に思ひ給はば、隠し無く誰人と宣へ。亦、御すらむ所をも知せ給へ」と。男の云く、「我れは此の近き辺に侍る也。『我が体(すがた)を見む』と思さば、明日、其の持給へる櫛の箱の中に有る油壺の中を見給へ。然て、其れを見給ふとも、恐ぢ怖るる心無くて御せ。若し、愕給はば、我が為に極て堪難かりなむ」と。女、「更に愕えじ」と宣て明ぬれば、男返り給ぬ。

其の後、女、櫛の箱開て油壺の中を見給ふに、壺の内に動(はたら)く者あり。「何の動くぞ」と思て、持上て見給へば、極て小き蛇、蟠て有り。油壺の内に有らむ蛇の程を思ひ遣べし。女、此れを見給ふままに、然こそ「愕えじ」と契しかども、大きに愕て、音を挙て棄て逃去ぬ。

其の宵、男来れり。例に非ず気色糸悪くて、女に近付く事無し。女、「怪し」と思て寄給へるに、男の宣はく、「然許申し事を用給はずして愕給ふ事、極て情無き也。然れば、我れ今は参り来じ」とて、極く半無気(はしたなげ)なる気色にて返り給ふを、女、「然許の事に依て『来じ』と有こそ口惜けれ」とて、引かへ給ふ時に、女の前に箸を搥(つき)立て、女、即ち死給たれば、天皇・后、歎き給ふと云へども、更に甲斐無くて止にけり。

然て、其の墓をば、大和国の城下(しきのしも)の郡にしたり。箸の墓(みはか)とて、于今有る其れ也となむ語り伝へたるとや。

text/k_konjaku/k_konjaku31-34.txt · 最終更新: 2015/05/01 19:36 by Satoshi Nakagawa
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