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今昔物語集

巻3第35話 八国王分仏舎利語 第(卅五)

今昔、「仏1)、滅度し給ひぬ」と聞て、波々国の末羅民衆と云ふ輩有て、皆相ひ議して云く、「我等、拘尸那城に行て、仏舎利を乞て、塔を起て、供養せむ」と云て、四種の兵を率して、拘尸那城に至て、使を遣て云く、「仏、此の土にして滅度し給へり。仏、我等が師に在ましき。然れば、専に敬ふ心深し。舎利を得て、本国に帰て、塔を起て、供養せむと思ふ」と。拘尸那国の王、答へて云く、「此の如く云ふ事、然るべし。但し、仏、此の土にして滅度し給へり。然れば、国の内の人、皆、『自ら供養せむ』と思へり。隣国より来らむ人、舎利を得べからず」と。

其の時に、亦、遮羅婆国の跋利民衆・羅摩国の拘利民衆・毗留提国の婆羅門衆・迦毗羅衛国の釈衆・毗舎離国の離多民衆、及び摩竭提国の阿闍世王等、「仏の拘尸那城沙羅双樹の間に在まして滅度し給ひぬ」と聞て、皆各云はく、「我等、行て仏舎利を得む」と云て、各四種の兵を率して、恒河河を渡て来る。

即ち、拘尸那城の辺に至て、香姓婆羅門と云ふ人に会て、勅して云く、「汝ぢ、我等が名を聞き持て、拘尸那城に入て、諸の末羅民衆に問て云ふべし。我等、隣国と和順して諍ふ心有らじ。仏、此の国にして滅度し給ふと聞く。仏は我等が貴び仰ぎ奉りし所也。此の故に、遠く来て、舎利を得て、各本国に還て、塔を起て、供養せむと思ふ。然れば、舎利を我等に得しめたらむ。国挙て重き宝として、共に供養せむ」と。

香姓婆羅門、此の教へを得て、彼の城に至て、諸の末羅民衆に此の由を語る。其の時に、諸の末羅民衆、答て云く、「実に此れ君の言の如き也。但し、仏、此の土にして滅度し給へり。国の内の人、専に供養し奉るべし。遠国の人に舎利を分かつべからず」と。其の時に、諸国の王、此れを聞き、各群臣を議し集めて云く、「我等、遠くより来て、舎利を得むと乞ふに、若し得しめずば、四兵と共に此の所に有て、身命を惜しまずして、力を以て取らむ」と。其の時に、拘尸那国の群臣、此の事を聞て、共に議して云く、「遠国の諸の群臣来て、『舎利を得む』と乞ふに、許さず。彼等、既に四兵を率して、力を以て取むとす。此の事、極めて恐れ有るべし」と。

其の時に、香姓婆羅門、衆人に語て云く、「諸の聖は、仏の教を受けて、口に法を唱へて、一切衆生を安楽せしめむと誓へり。而るに、今、仏舎利を諍が故に、仏の遺形を相ひ害せむや。然れば、速に彼の諸国の王に、舎利を分ち宛つべし」と。衆人、此れを、「善哉」と云ふ。

然れば、此の由を諸国の王に告ぐ。諸国の王、舎利の所に来集ぬ。亦、議して云く、「舎利を分たむに、誰れか足れる人」と。衆人の云く、「香姓婆羅門、心正直にして智(さとり)有り。其の人、舎利を分たむに足れり」と。

其の時に、諸の国の王、香姓婆羅門に云く、「汝ぢ、我等が為に、仏の舎利を分たむ事、等くして八分に成すべし」と。香姓婆羅門、即ち舎利の所に詣でて、礼拝して、先づ上の牙を取て、別に一面に置て、阿闍世王に与ふ。次々に皆舎利を分つ。明星の出る時に、舎利を分ち畢ぬ。香姓婆羅門、一の瓶を持て、其れに石を入て、舎利を量て、等しくして、八分に分つ。

舎利を分ち畢て、衆人に告て云く、「人、皆此の瓶を見るべし」と。「自らも此の瓶を家に持行て、塔を起て、供養せむ」と。

其の時に、亦、畢婆羅樹の人有て、衆人に申さく、「地の燋(こが)れたる灰を得て、塔を起てて供養せむ」と云ふ。皆人、此れを与へつ。亦、拘尸那国の人、舎利を分ち得て、其の土に塔を起てて供養す。

婆々国・遮羅国・羅摩伽国・毗留提国・迦毗羅衛国・毗舎離国・摩竭提国の阿闍王2)等、皆舎利を分ち得て、各本国に還て、塔を起てて供養す。香姓婆羅門は瓶を以て塔を起てて供養す。畢鉢羅樹の人は、地の燋れたる灰を取て、塔を起てて供養す。然れば、舎利を以て八の塔を起たり。第九には瓶の塔、第十には灰の塔、第十一には仏の生身の時の髪の塔也。

仏は星の出る時に生れ給ふ。星の出る時に出家し給ふ。星の出る時に成道し給ふ。亦、八日に生れ給ふ。八日に出家し給ふ。八日に成道し給ふ。八日に滅度し給ふ。亦、二月に生れ給ふ。二月に出家し給ふ。二月に成道し給ふ。二月に滅度し給也けりとなむ、語り伝へたるとや。

1)
釈迦
2)
阿闍世王。諸本世なし。
text/k_konjaku/k_konjaku3-35.txt · 最終更新: 2016/07/19 23:47 by Satoshi Nakagawa
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