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今昔物語集

巻3第34話 荼毘仏御身語 第(卅四)

今昔、仏1)、涅槃に入給て後、遺言に依て、転輪聖王の如く、其の御身を荼毗葬し奉らむと為るに、拘尸那城の内に四の力士有り。瓔珞を以て其の身を荘(かざり)て、七宝の火を持てり。大なる事、車輪の如し。光普く照せり。

此の火を以て、仏の御身を焼き奉らむとして、火を香楼に投るに、其の火、自然ら滅しぬ。其の時に、迦葉、此れを見て、力士に告て宣はく、「仏の宝棺をば、三界の火を以て焼かむに能はじ。汝等が力を以て焼かむや」と。

亦、其の時に、城の内に八の大力士有り。七宝の火を以て、亦、棺に投ぐるに、皆滅しぬ。亦、城の内に十六の大力士有り。各七宝の火を以て、香楼に投ぐるに、皆滅しぬ。亦、城の内に卅六の大力士有り。各七宝の火を以て棺に投ぐるに、皆滅しぬ。

其の時に、迦葉、諸の力士、及び大衆に告て宣はく、「汝等、当に知るべし。縦ひ一切の天人有て、仏の宝棺を焼かむに能はじ。然れば、汝等、強に焼き奉らむ事思はざれ」と。

其の時に、城の内の男女、并に天人・大衆、猶仏を恋ひ奉て、泣々く各所持の物を以て供養し奉て、礼拝して、右に七匝(めぐり)廻て、音を挙て大きに叫ぶ。其の音、世界を響かす。其の時に、大悲の力を以て、心胸の中に火を出し給て、棺の外に涌き出たり。諸の人、此れを見て、希有の思を成す。漸く焼け給ふ。七日の間に香楼焼け尽ぬ。其の時に、城の内の男女・大衆、七日の間、泣き悲む事絶えずして、各供養し奉る。

其の時に、四天王、各思給はく、「我等、香水を以て、此の火に灑て、滅せしめて、舎利を取て供養せむ」と思給て、七宝の瓶に香水を盛り満て、亦、須弥山より四の樹を下せり。其の樹、各千囲也。高き事、百由旬。四天王に随て、童子に下て、荼毗の所に至れり。樹より甘乳を生ず。四天王、香瓶に此の甘乳を移して、一時に火に灑ぎ給ふに、火の勢ひ弥よ高く成て、更に滅する事無し。

其の時に、大海の沙竭羅竜王、及び江の神・河の神有て、此の火の滅せざる事を見て、各思はく、「我等、香水を持行て、灑て火を滅して、舎利を取て供養せむ」と思て、各七宝の瓶に無量の香水を入れ満て、荼毗の所に至て、一時に火に灑ぐに、火の勢、本の如くにして、滅する事無し。

其の時に、楼逗2)、四天王、及び竜神等に語て云く、「汝等、『香水を灑て火を滅せむ』と思へり。此れ、『舎利を取て、本所に持行て供養せむ』と思ふが故え何(いか)に」と。四天王・竜神、各答て云く、「我等、然か思ふ也」と。楼逗、四天王、及び竜神に語て云く、「汝等、大に貪る心有り。汝等は天上に有り。舎利、汝等に随て天上に在さば、下地の人、何にか行て供養する事を得むや」と。亦、竜神等に語て云く、「汝等は大海・江・河に有り。仏舎利を取て所居に行きなむ、他の人、何をか行て供養する事を得むや」と3)

其の時に、皆各此の事を聞て、四天王は各懺悔を至して、天上に還り給ひぬ。大海・江・河の神等も、皆各懺悔を至して、所居に還ぬ。

其の後、天帝釈、七宝の瓶を持ち、及び供養の具を持て、荼毗所に至り給ふに、其の火、一時に自然ら滅しぬ。其の時に、天帝釈、宝棺を開て、一の牙舎利を請て、天上に還て、塔を起て、供養し給けりとなむ、語り伝へたるとや。

1)
釈迦
2)
阿那律
3)
底本頭注「亦竜神等以下ノ五十字諸本ニ脱ス」
text/k_konjaku/k_konjaku3-34.txt · 最終更新: 2016/07/19 15:02 by Satoshi Nakagawa
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