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text:k_konjaku:k_konjaku3-31

今昔物語集

巻3第31話 仏入涅槃給後入棺語 第(卅一)

今昔、仏1)、涅槃に入給はむと為る時に、阿難に告て宣はく、「我れ、涅槃に入なむ後には、転輪聖王の如く、七日留めて、鉄2)の棺に入れて、香油を以て棺の中の灑ぎ満てよ。其の棺の四面をば、七宝を以て荘厳すべし。亦、一切の宝幢3)・香花を以て供養して、七日を経て後、鉄棺より出して、諸の香水を以て我が身に浴して、上妙の兜羅綿を以て身に纏へ、微妙の白畳4)(しろてづくり)を以て綿の上にて、皆鉄棺に入れて、微妙の香油を以て、棺の内に満て、閉て、妙なる牛頭栴檀・沈水香を以て、七宝の車に入て、諸の宝を以て荘厳して、棺を乗すべし」と。此の如く宣ひ置て、既に滅度し給ぬ。

其の時に、阿難・諸の大弟子の羅漢羅等、音を挙て泣き悲む事限無し。菩薩・天人・天竜八部・若干の衆会・異類の輩、皆、各歎かずと云ふ事無し。金剛力士は五体を地に投て悲む。十六の諸王は音を挙て叫ぶ。其の時に、大地・諸山・大海・江河、皆悉く震動す。双樹の色も変じて、心無き草木、皆悲びの色有り。此の如く、天地挙て歎き合へりと云へども、更に力無くて止ぬ。

其の後、仏の教へ置き給ひしが如く、七日を経て、鉄棺に入れ奉てけりとなむ、語り伝へたるとや。

1)
釈迦
2)
底本頭注「鉄一本金ニ作ル下同ジ」
3)
底本頭注「幢諸本幡ニ作ル」
4)
底本頭注「畳一本氈ニ作ル」
text/k_konjaku/k_konjaku3-31.txt · 最終更新: 2016/07/18 14:31 by Satoshi Nakagawa