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今昔物語集

巻28第24話 穀断聖持米被咲語 第廿四

今昔、文徳天皇の御代に、波太岐の山と云ふ所に、聖人有けり。穀を断て年来を経にけり。天皇、此の由を聞食て、召出して、神泉苑に居(すゑ)られて、帰依せさせ給ふ事限無し。此の聖人、永く穀を断たる者なれば、木の葉を以て食(くひもの)としてなむ有ける。

而る間、若く勇み殿上人の物咲する、数(あまた)、「去来(いざ)、行て彼の穀断の聖人見む」と云て、彼の聖人の居たる所に行ぬ。聖人の極く貴気にて居たるを見て、殿上の人共、礼拝して問て云く、「聖人、穀を断て何年(いくと)せに成せ給ひぬ。亦、年は何(いくつ)にか成給ふ」と。聖人の云く、「年既に七十に罷成たるに、若より穀を断たれば、五十余年には罷り成ぬ」と云を聞て、一人の殿上人、忍て云く、「穀断のしたる屎は何様にか有らむ。例の人のには似じかし。去来、行て見む」と云合せて、二三人許、厠に行て見れば、米のを多く□量たり。

此れを見て、「穀断は争で此くは為べきぞ」と、怪しび疑ひて、聖人の居所に返り行たれば、聖人、白地(あからさま)に立去たる間に、居たる畳を引返して見れば、板敷に穴有り。下に少し土を掘たり。「怪し」と思て、吉く見れば、布の袋に白き米を裹て置たり。

殿上人共、此れを見て、「然ればよ」と思て、畳を本の如くに敷て居るに、聖人返ぬ。其の時に、殿上人共、頬咲て、「米屎の聖、々」と呼喤て咲ければ、聖人、恥て逃て去けり。其の後、行き方を知らずして止にけり。

早う、人を謀て、「貴ばれむ」とて思て、密に米を隠して持りけるを、知らずして、穀断と知て、天皇も帰依せさせ給ひ、人も貴びける也けりとなむ語り伝へたるとや。

text/k_konjaku/k_konjaku28-24.txt · 最終更新: 2015/02/17 02:50 by Satoshi Nakagawa
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