今昔物語集
今昔、円融院の法皇1)失せ給ひて、紫野に御葬送有けるに、一とせ、此に御子の日に出させ給へりし事など思ひ出て、人々哀れに歎き悲けるに、閑院左大将朝光大納言2)、此なむ読ける。
むらさきのくものかけてもおもひきやはるのかすみになしてみむとは
と。
亦、行成大納言3)、此なむ読ける。
おくれじとつねのみゆきにいそぎしに煙にそはぬたびのかなしさ
此れなむ読けるも哀れ也となむ語り伝へたるとや。