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今昔物語集
巻24第37話 藤原実方朝臣於陸奥国読和歌語 第卅七
今昔、藤原実方朝臣と云ふ人有けり。小一条の大将、済時の大納言1)と云ける人の子也。
一条院2)の御時に左近中将として□の殿上人にて有けるに、思懸けず陸奥守に成て、其の国に下て有けるに、右近中将源宣方朝臣と云ける人は□□の子也、実方と共に禁中に有ける時、諸の事を隔無く云ひ通はして、極たる得意にて有けるに、泣々実方に別れて、陸奥国に下にけるに、彼の国より、実方中将、宣方中将の許に此なむ云ひ遣たりける。
やすらはでおもひたちにしあづまぢにありけるものをはばかりのせき
となむ有ける。
亦、道信中将3)と云ふ人有けり。其れも此の実方中将と限り無き得意にて有けるに、「九月許に紅葉見に諸共に行かむ」と契を成して後、彼の道信中将、思懸けず失にければ、実方中将、限り無く哀れに思て、泣々く独言に此くなむ、
みむといひし人ははかなくきえにしをひとりつゆけきあきのはなかな
となむ云て、恋ひ悲みけり。
亦、此の実方中将、愛しける幼き子におくれたりける比、限り無く恋悲て寝たりける夜の夢に、其の児の見へたりければ、驚き覚て後、此なむ。
うたたねのこのよのゆめのはかなきにさめぬやがてのいのちともがな
となむ云て、泣々く恋ひ悲びける。
此の中将は、此く和歌を読む方なむ極たりける。
而る間、陸奥守に成て、其の国に下て、三年と云に、墓無く失にければ、哀れなる事、実に限り無くして止にけり。其の子の朝元4)と云ひし人も、和歌の上手にてなむ有けるとなむ、語り伝へたるとや。
text/k_konjaku/k_konjaku24-37.txt · 最終更新: 2016/02/24 19:12 by Satoshi Nakagawa