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今昔物語集

巻20第5話 仁和寺成典僧正値尼天狗語 第五

今昔、仁和寺に成典僧正と云ふ人有けり。俗姓は藤原の氏、広沢の寛朝大僧正1)を師として、真言の密法受け学て、年来、行法怠る事無くして、僧正まで成上たる人也。

然れば、其の人、仁和寺に行ひて居たる。同仁和寺の内の辰巳の角に、円堂と云ふ寺有り。「其の寺には、天狗有」とて、人、極て恐つる所也。

而るに、此の僧正、夜る其の堂に、只独り仏前に居て、行法を修して居たりけるに、堂の戸の迫(はざま)より、頭に帽子を着たる尼の臨(のぞき)ければ、僧正、「夜は2)何ぞの尼の、此は臨くにか有らむ」と思ふ程に、尼、急(き)と入り来て、僧正の傍に置たる三衣筥を取て、逃て行ければ、僧正、追ひ継ぎて行けるに、尼、堂の後戸より出て、後ろに高き槻木有るに上て居ければ、僧正、此れを見上て加持しけるに、時に尼、加持せられて、堪へずして、木の末より土に落にければ、僧正、依て、三衣筥を奪ひ返しける。暫許引しろひて、僧正、奪ひ取てける。尼は三衣筥の片端引き破て、逃げ去にけり。

其の尼の上りたる木、于今に有り。其の尼をば、「尼天狗」と云ふ也となむ、語り伝へたるとや。

1)
底本頭注「大僧正一本大字ナシ」
2)
底本頭注「夜ハノ二字一本ナシ」
text/k_konjaku/k_konjaku20-5.txt · 最終更新: 2016/03/03 02:17 by Satoshi Nakagawa
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