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今昔物語集

巻17第35話 弥勒為盗人被壊叫給語 第卅五

今昔、聖武天皇の御代に、奈良の京の時、勅有て、夜る京中を巡て夜行する事有けり。

而るに、其の夜行の人の聞くに、夜半許に葛木の尼寺の前の蓼原1)の中に、人の哭き叫ぶ音有り。叫て云く、「我れ痛哉、々々」と。夜行の人、此れを聞て、其の所に馳至ぬ。

見れば、蓼原の中に人有り。怪むで、此れを捕へて問へば、早う盗人也けり。其の寺の弥勒菩薩の銅の像を盗取て、破り損ぜむと為る也けり。即ち、夜行の人、其の盗人を搦捕へて、官に送て、獄に禁(いまし)2)めつ。天皇に此の由を奏して、仏をば取て、本の如く寺に安置し奉りつ。

此れを思ふに、菩薩は血肉を具し給はず。豈に痛み給ふ所有らむや。而るに、只、此れ凡夫の為に示し給ふ所也。「盗人に重罪を犯さしめじ」と思ひ給ふ為也。其の比、人、皆此の事を聞て、「奇異の事也」とてなむ、悲び貴びけるとなむ、語り伝へたるとや。

1)
底本頭注「蓼原ハ墓原ノ誤カ下同ジ」
2)
底本ルビ「シマシ」。誤植と見て訂正。
text/k_konjaku/k_konjaku17-35.txt · 最終更新: 2016/01/17 13:59 by Satoshi Nakagawa
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