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今昔物語集

巻17第34話 弥勒菩薩化柴上給語 第卅四

今昔、近江の国坂田の郡の表江1)の里に一の人有けり。家、大きに富て、財極て多し。而るに、其の人、「瑜伽論と云ふ法文を書写せむ」と願を発すと云へども、公け私の営多かる間に、其の事を遂げずして、数(あまた)の年を経にけり。

而る間、家の財、漸く衰へて、衣食に便無く成ぬ。然れば、其の人、阿倍の天皇2)の御代に、天平神護二年と云ふ年の九月の比、一の山寺に行て、留めて住て、日来を経るに、其の山寺の内に、一本の柴生たり。而るに、其の柴の皮の上に、忽に弥勒菩薩の像、化生し給ふ。其の時に、此の人、此の弥勒菩薩の像を見奉て、柴を上を仰ぎ見て、貴び悲ぶ事限無し。

諸の人、亦此の事を伝へ聞て、集り来て、此の弥勒の像を見奉て、貴びて礼拝する間、或は稲を持来て奉り、或は米を持来て奉り、或は衣を持来て奉り、凡そ諸の財を供養す。

而る間、此の人、此の諸の財を取り集めて、其れを以て、瑜伽論百巻書写して、供養しつ。其の後、忽に此の弥勒の像、失せ給ひぬ。現に知ぬ。此れ、此の人の願を遂げしめむが為に現じ給ふ也けり。

此れを思ふに、弥勒菩薩は兜率天上に在ますと云へども、衆生利益の為には、苦縛の凡地に下て、形を現じ給ふ也けり。然れば、世の人、専に信を発して弥勒を崇め奉るべしとなむ、語り伝へたるとや。

1)
底本頭注「表江ハ細江ノ誤カ」
2)
孝謙天皇・称徳天皇
text/k_konjaku/k_konjaku17-34.txt · 最終更新: 2016/01/17 13:38 by Satoshi Nakagawa
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