Recent changes RSS feed

今昔物語集

巻16第38話 紀伊国人邪見不信蒙現罸語 第卅八

今昔、紀伊の国の伊都の郡桑原の里に、狭屋寺と云ふ寺有り。其の寺に住む尼共有けり。

聖武天皇の御代に、彼の尼共、願を発して、彼の寺にして法事を行ふ。奈良の右京薬師寺の僧題恵禅師と云ふ人を請じて、十一面観音の悔過を行ふ。

其の時に、彼の里に一の悪人有けり。姓は文の忌寸、字は上田の三郎と云ふ。邪見にして三宝を信ぜず。其の人の妻有り。姓は上毛野の公、字は大橋の女と云ふ。其の女、形ち有様、美麗にして、心に因果を知て、夫の外に行たる間に、一日一夜、戒を受け、彼の悔過を行ふ所に詣でて、聴聞の人の中に居ぬ。

而る間、夫、外より返て、家を見るに、妻無し。家の人に、「妻、何こへ行たるぞ」と問ふに、家の人、「悔過を行ふ所に参ぬ」と答ふ。夫、此れを聞て、大きに嗔て、即ち1)、彼の導師、此れを見て慈の心を発して、教へて導ぬ。

而るに、夫、此れを□□□□□□「汝は此れ我が妻を婚(くなが)むと為る盗人法師也。速に我れ汝が頭を打破るべし」と詈(のり)て、妻を呼て家に将返ぬ。即ち、夫、其の妻に向て、「汝ぢ、必ず此の法師に盗まれぬらむ」と嗔て、妻を寝所に引入て、二人臥ぬ。

即ち婚ぐに、夫の○2)に、忽に蟻付て嚼む様に思て、此れを痛み病て、程無く死ぬ。

此れを見聞く人、「打つ事無しと云へども、悪心を発して、濫に法師を詈り、恥かしめたる故に、現報を得る也」と云て、悪3)み謗る事限無し。

然れば、僧を謗ずる事無かれ。亦、「此れ、観音の悔過を行ふを、来て聞く人を妨ぐる過(とが)也」となむ語り伝へたるとや。

1)
底本頭注「即チノ下脱文アラン霊異記即往喚妻トアリ」
2)
「○」底本ママ。諸本「𨳯(門がまえに牛)」
3)
「にく」底本異体字。りっしんべんに惡
text/k_konjaku/k_konjaku16-38.txt · 最終更新: 2015/12/23 12:56 by Satoshi Nakagawa
CC Attribution-Share Alike 4.0 International
Recent changes RSS feed Driven by DokuWiki

yatanavi.org ©2004-2017 Satoshi Nakagawa