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今昔物語集

巻16第31話 貧女仕清水観音給金語 第卅一

今昔、京に極て貧き女の清水に懃に参る有けり。此く参る事、年来に成にけりと云へども、聊の験と思ゆる事無かりけり。

而る間、指(させ)る夫無くして懐妊しぬ。本より家無ければ、人の家を借て居たるに、漸く月日の過ぐるに随て、「我れ何にて子を産ぬらむ」と歎き悲むで、清水に参て、此の事を泣々く申けるに、既に月満ぬ。然ども、産むべき所も無し。儲たる一塵の物も無し。然れば、只、観音を恨み申すより外の事無し。

而る間、隣に有る女人と、此の事を歎て、共に清水に参て、御前に低(うつぶ)し臥たる間に寝入ぬ。夢に御堂の内より、貴く気高き僧、出来て、女に向て宣はく、「汝が思ひ歎く事は、量ひ給はむとす。歎く事無かれ」と宣ふと見て、夢覚ぬ。其の後、喜び思て罷出ぬ。

次の日、亦、此の隣の人と共に清水に参ぬ。鎮守の明神の御前に居て、立つ時に、此の隣の女人の前に、紙に裹たる物有り。隣人、「何物ぞ、此は」と思て、取て持たり。暗き程にて、開ても見えず。

其より御堂に参て、其の夜籠ぬ。其の夜の夢に、気高く貴き僧、出来て、女に宣はく、「汝が鎮守の明神の前にして取て持たる物は、此の懐妊の女に給ふ物也。速に其の女に与ふべし」と宣ふと見て、夢覚めぬ。

夜曙て後、「此れは何物にか有らむ」と思て、開て見れば、金三両を裹たり。「奇異也」と思て、「此の女に与てむ」と思ふに、極て惜くて、思はく、「我も観音に仕る身也。何ぞ給はざらむ。其れに、彼の女を尚を哀れと思し食して給ふべくは、他の金をも給ふべき也。此をば、我れに給へ」と思て、与へずして家に返ぬ。

其の夜、家に寝たる夢に、前の僧、出来て、宣はく、「其の金をば、何ぞ今まで彼の女には与へぬぞ。極て便無き事也」と宣ふと見て、夢覚めぬ。其の後、極て恐ぢ怖れて、此の金を□□□□□□□□□□□一両を以て、直米三石に売りて、其れを以て家を買て、其の家にして平安に子を産つ。今二両を売て、其れを本として、便り付てなむ有ける。

観音の霊験、既に此の如し。此れを聞む人、懃に心を至して、観音に仕ふべし。此れ、糸近き事也となむ、語り伝へたるとや。

text/k_konjaku/k_konjaku16-31.txt · 最終更新: 2015/12/19 19:28 by Satoshi Nakagawa
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