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今昔物語集

巻16第30話 貧女仕清水観音給御帳語 第三十

今昔、京に極て貧き女の清水に強に参る有けり。

此く参て、年月は積と云へども、露許の験と思ゆる事無くして、貧き事、弥よ増(まさり)て、後には年来住ける所をも、其の事となく浮かれて、寄付く所も無く成にければ、清水に参て、泣々観音を恨み奉て、申して云く、「譬ひ、前世の宿報拙しと云ふとも、只少しの便を給はらむ」と煎(い)り糙(もみ)て、御前に低(うつぶ)し臥して寝たる夢に、御前より人来て、女に告て宣はく、「此く強に責申すを『糸惜』と思食せども、給ふべき便り無ければ、其の事を思食し歎く也。然れば、此れを給はれ」とて、御帳の帷を糸吉く打畳て、前に置ると見て、夢覚ぬ。

其の後、御明(みあかし)の光に見れば、夢に給はると見つる御帳の帷、畳(たたみ)つる様にして有るを見るに、「然は、此より外に給ふべき物無にこそ有れ」と思ふに、身の宿世思ひ知られて、悲しむで、亦申さく、「我れ、更に此れを給はらじ。『少の便りも有らば、錦をも御帳の帷に縫ひて奉らむ』とこそ思ふに、此の御帳許を給はりて出づべきに非ず」と云て、犬防の内に指入て置つ。

其の後、亦寝たる夢に、前の如く人来て宣はく、「何(な)ど此く返し申すぞ。速に給はれ」とて、給ふ。驚て見れば、亦、同様に前に有り。亦、前の如く返し奉つ。此の如く三度返し奉つるに、尚三度乍ら返し給ふ。「其の度は、返し奉らば、無礼なるべし」と思ふに、「此の事を知らざらむ寺の僧は、『御帳を放ち取たり』とや疑はむずらむ」と思ふに苦しければ、夜深く、此の御帳を懐に入れて、罷出ぬ。

「此をば何が為べき」と思ひ廻して、「着物の無きに、衣に縫て着む」と思ひて、忽ちに衣・袴にして着つ。其の後、見と見る、男にも女にも、哀れに糸惜き物に思はれて、諸の人の手より、思係けぬ物を得けり。人に物を云はむとても、此の衣を着て云ければ、必ず叶けり。

此の如くして、便付にければ、吉夫出来て、楽しくぞ有ける。然れば、其の衣をば畳み納て、吉き事有るべき時にも取出でて着けり。其の後は、「此れ偏に観音の御助也」と知て、弥よ参て礼拝し奉けり。

此れを聞く人、皆清水の観音の霊験を貴びけりとなむ語り伝へたるとや。

text/k_konjaku/k_konjaku16-30.txt · 最終更新: 2015/12/19 18:45 by Satoshi Nakagawa
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