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今昔物語集

巻16第14話 御手代東人念観音願得富語 第十四

今昔、聖武天皇の御代に、御手代の東人と云ふ人有けり。此の人、吉野の山に入て、法を修して、富を願ふ。殊に観音を念じ奉て申さく、「南無、銅鉄万貫1)、白米万石、好女多得」と。此如く念じて三年を経。

其の時、三位粟田の朝臣と云ふ人有り。其の娘、未だ嫁がずして、広瀬の家に有るに、忽ちに身に病を受たり。懃ろに痛み苦むと云へども、愈る事無し。然れば、父の卿、歎き悲むで、諸の人に此の事を問て、此の病を祈らしむが為に僧を求るに、其の使、東人に値て、東人を請ず。即ち来て、此の病者を祈るに、病愈ぬ。

而る間、此の女、東人に深く愛欲の心を発す。東人、其の心を見て、女と窃に嫁ぬ。其の後、父母、此の事を聞て、嗔て東人を捕へて、楼樔(をり)に籠て居へつ。

而るに、女、愛の心に堪へずして、東人を恋ひ悲むで、忍て其の辺を離れず。然れば、東人を預かれる者、女人の心を知て、東人を免して、女と通はしむ。

此の如く為る間、父母も娘の心を知て、遂に免して夫妻と成しつ。後には家を譲り、財物を皆東人に与ふ。

其の後、数年を経て、其の女、病を受けて遂に死ぬ。死ぬる尅に、妹に語て云く、「我れ、今死なむとす。但し、思ふ事一つ有り。汝ぢ、許すや否や」と。妹の云く、「我れ、君の思ひに随ふべし」と。姉の云く、「我れ、東人が事を思ふに、永く忘れず。然れば、我れ、死なむ後、汝ぢ、東人が妻として、家の内を守らしめむと思ふ」と。妹、姉が遺言を受けつ。姉、喜て死ぬ。父母、姉の遺言に随ひて、妹を東人に与へて、家の財を授く。然れば、夫妻として久く有けり。

東人、現に願ひに依て大福徳を得たる。此れ、修行の験力、観音の威徳とぞ、見聞く人、讃め貴びけるとなむ語り伝へたるとや。

1)
底本頭注「鉄ハ銭ノ誤カ」
text/k_konjaku/k_konjaku16-14.txt · 最終更新: 2015/12/01 11:06 by Satoshi Nakagawa
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