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今昔物語集

巻16第13話 観音為人被盗後自現給語 第十三

今昔、大和国平群の鵤の村に、岡本寺と云ふ寺有り。其の寺に銅の観音の像、十二体在ます。此の寺、尼の住する所也。

而るに、聖武天皇の御代に、彼の銅の像六体、盗人の為に取られぬ。此れを求め尋ぬと云へども得る事無し。其の後、程を経て、其の郡の駅の西の方に小さき池け有り。其の池の辺に、牛飼ふ童部数(あまた)有て有るに、池の中に小き木、指出たり。其の木に鵄(とび)居たり。童部、此れを見て、礫塊拾て鵄を打つに、鵄、去らずして、尚居たり。然れば、童部、投げ打つ事を止て、池に下て鵄を捕へむと為るに、鵄、忽に失ぬ。

居たりつる木は尚有り。其の木を吉く見れば、金の指にて有り。童部、怪むで、此れを取て、牽き上るに、観音の銅の像にて在ます。童部、此れを陸に牽き上て、里の人に此の事を告ぐ。里人来て、此れを見る。

彼の岡本寺の尼等、此事を伝へ聞て見るに、其の寺の観音に在す。塗(ぬれ)る金、皆褫(あばけ)て落たり。尼等、観音を衛繞(かこみめぐり)て、泣き悲むで、「我等、失ひ奉て、年来求め奉る観音、何なる事有てか賊難に値給へる」と云て、忽に輿1)(こし)を造て、入れ奉て、本の岡本寺に渡し奉て、安置して、礼拝し奉けり。而るに、其の辺の道俗男女集り来て、礼拝恭敬する事限無し。

此れを思ふに、「彼の池に有けむ鵄は、実の鵄には非じ。観音の変じて、鵄と成て示し給ひける也」と思ふが、貴く悲き也。仏は人の心に随ひて霊験を施し給ふ事なれば、盗人の為に取られ給ふも、此の如く霊験を現じ給はむが為也。

皆此れを知て、心を至して観音に仕ふべしとなむ、語り伝へたるとや。

1)
底本異体字「轝」
text/k_konjaku/k_konjaku16-13.txt · 最終更新: 2015/12/01 10:19 by Satoshi Nakagawa
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