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今昔物語集

巻15第8話 比叡山横川尋静往生語 第八

今昔、比叡の山、横川に尋静と云ふ僧有けり。本より心に邪見を離れて、正直にして、物を惜み貪ぼる事無し。人の来る毎には、先づ飯食を儲け食はしむ。十余箇年の間、山の外に出ずして、籠り居て、昼は金剛般若経を読て日を暮らし、夜は弥陀の念仏を唱へて夜を曙かし、此如くして極楽に往生せむ事を懃に願ひけり。

而る間、年月積て、尋静が年既に七十三に成る年の正月に、尋静が身に病を受て、日来悩み煩ふ間、弟子共を勧めて、諸共に日毎三時に弥陀の念仏三昧を修せしむ。

而る間、二月の上旬に成て、尋静、弟子共を皆呼び寄せて、語て云く、「今、我れ、夢に大きなる光の中に、数の止事無き僧在まして、微妙の財を荘(かざ)れる一の輦(てぐるま)を持来て、微妙の音楽を唱て、西方より来て、虚空の中に有り。此れ極楽の迎なめりと思ふ」と。弟子共、之れを聞て、貴び思ふ事限無し。

而るに、其の後、五六日を経て、尋静、更に沐浴し、清浄にして、三箇日夜永く飲食を断て、一心に念仏を唱へて怠る事無し。亦、弟子を呼て語て云く、「汝等、今明日我れに飲食を勧め、諸の事を問ひ聞かす事無かれ。我れ、一心に極楽を観念するに、他の思ひ出来れば、其の妨と成る故也」と云て、即ち、西に向て掌を合せて失にけり。

弟子等、此れを見て、泣々く弥よ念仏を唱へて、師の極楽に往生せる事を貴び悲びけり。山の内の人、亦此れを聞て、皆貴び悲しまずと云事無かりけりと、なむ語り伝へたるとや。

text/k_konjaku/k_konjaku15-8.txt · 最終更新: 2015/10/01 17:13 by Satoshi Nakagawa
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